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どんなに暗い夜だって… 7-3(夏樹)

「ん?……ふはっ!!」  雪夜の姿を探していた夏樹は、改札の向こうから歩いてくる佐々木たちを見て、思わず吹き出した。  佐々木と相川に挟まれていたのは、雪夜ではなく大きなクマのぬいぐるみだった。 「ただいま~!」  ぬいぐるみが夏樹に向かって話しかけて来る。 「おかえり!楽しかった……みたいだね」 「はい!」  今日は遊園地に行っていたはずなのに、どうしてそんなもの持ってるんだろう……?  と、疑問に思ったが、それよりも……  大きなクマのぬいぐるみなんて男子大学生が持つにはちょっと可愛すぎると思うが、雪夜が持つとやけに似合う。  クマのぬいぐるみをギュッと抱きしめた雪夜は頬を紅潮させて瞳を輝かせ、ここ最近で一番いい笑顔をしていた。  いやもう、うちの子可愛すぎる!!  ちょっとこれ写真撮りたいな……でも、そんなこと言ったら雪夜拗ねそうだからやめとくか。  よし、隠し撮りしよう……! 「あのっ……あのねっ!?……すっっごく楽しかったですっ!!」 「それは良かったね。後でいっぱい話聞かせて?」 「はいっ!!」    満面の笑みで返事をする雪夜だったが、せっかくの笑顔がぬいぐるみでほとんど隠れていた。 「はい、夏樹さん。これは俺たちから夏樹さんにお土産~!」  雪夜と夏樹の間に割って入ってきた佐々木が、持っていた紙袋を渡して来た。 「お土産?俺に?」  夏樹が訝し気な顔で受け取ると、佐々木がちょっと顔を寄せてきた。 「お小遣いのお礼。まぁ、雪夜が欲しそうにしてたやつだから、二人で食べて」  相川とぬいぐるみでじゃれあっている雪夜を見ながら、佐々木が声を潜めた。 ***  雪夜は元々金遣いの荒い方ではない。  付き合い始めた当初から、高価な物は絶対に受け取らなかったし、そもそも雪夜から何かをねだってくることもなかった。  もちろん自分でも余計なものは一切買わない。  だから、雪夜の部屋はかなり物が少なかった。  同棲を始めてからもそれは徹底していて、安価なものでもどうしても必要なものしか買おうとしない。    今回の遊園地は無料招待券があったので、最低限必要なのは交通費と食事代だけだった。  雪夜は夏休み中の短期バイトで少しは収入があったはずなので、あえて夏樹はお小遣いを渡さなかった。  渡してもたぶん夏樹のお金には手を付けないだろうと思ったからだ。  そのかわり、佐々木に「みんなで好きに使え」とこっそりお小遣いを渡しておいた。  佐々木はちゃんと夏樹の意図を汲んでくれて「仕方ないなぁ~」と苦笑しながら受け取った。  しっかり者の佐々木に渡しておけば、雪夜が変に遠慮しなくてすむように上手く使ってくれるので安心だ。  このお土産は、そのお小遣いのお礼というわけだ。 「昼飯代その他諸々で全部使い切ったからおつりはないっすよ」 「え、全部使い切ったの?」 「1円残らず使い切ってやりましたけど?」 「そうか。わかった。ありがとな」  別に、全部使わなくても残った分はお駄賃として取っておいてくれてもいいのに……    几帳面な佐々木の性格に思わず苦笑する。 「いえいえ、こちらこそ。ごちになりました!よし、帰るぞ相川。それじゃまたな~雪夜」 「あ、うん。相川も佐々木もありがとね!!」  相川と佐々木が手を振りながら去って行った。 *** 「さてと、それじゃ俺たちも行こうか」 「はぁい!」  雪夜がぬいぐるみの腕を持ち上げて返事をした。  なんだそれ……可愛っ!  顔がにやけそうになるのを、咳払いで誤魔化した。 「あれ?夏樹さんどこ行くんですか?」  夏樹が家に帰る道とは反対方向に歩き出したので、いつもの方向に行こうとしていた雪夜が慌てた。 「あぁ、ごめん。車で来てるんだよ。駐車場こっち」  ぬいぐるみに気を取られて、車で来ていることを話し忘れていた。  普段は公共交通機関を使う方が多いので、雪夜と同棲してからでも車を使ったのは花火デートの時だけだ。  雪夜はあの時初めて俺が車を持っていることや運転できることを知ったから、やけに驚いていたっけ……   「車って……夏樹さんもどこか出かけてたんですか?」  雪夜がぬいぐるみを両手で抱きしめたまま小走りで後ろを追いかけてくる。  ぬいぐるみのせいで歩きにくそうだ。  雪夜がぬいぐるみを抱っこしてるのか、雪夜がぬいぐるみにおんぶされてるのか、わからなくなるな……  まぁ、それはさすがに大袈裟だけど、でもこの状態で電車に乗ってたんだよ……な?  立ち止まってそんなことを考えている間に雪夜が追いついてきたので今度は歩調を合わせて歩き始める。 「ん~、ちょっとね。出かけてたし、これからまた出かけようかなと思って」 「え、そうなんですか?じゃあ、俺は先に帰って――……」  雪夜が足を止めた。 「なぁに言ってんの?雪夜と出かけるんだよ?」 ***

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