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どんなに暗い夜だって… 7-4(雪夜)

 夏樹の運転する車に乗るのは2回目だ。  後部座席には、雪夜が抱えていたぬいぐるみが窮屈そうにシートベルトをして座っている。  何とも言えないシュールな光景に頬が緩んでしまう。  前回は、花火大会の日に佐々木と相川も同乗してみんなで穴場の公園に行って花火を見た。  あの時は、夏樹と二人きりだった時間はほとんどなかったが、今日は完全に二人きりだ……  あ、後ろにぬいぐるみがいるけど。  この限られた空間の中で二人きり……助手席って……なんだか緊張する。  性癖のせいで一生誰とも付き合えないと思っていた自分が、好きな人が運転する車の助手席に座っているなんて、夢みたいだ……  これって、所謂(いわゆる)ドライブデートってやつだよね!?  前を見ているフリをして、横目で夏樹さんを盗み見る。  ヤバい……運転してる夏樹さんカッコいいっ!!横顔も素敵すぎるっ!! 「雪夜、さっきから視線が痛いんですけど……どうしたの?」  運転しながら、夏樹が話しかけてきた。 「えっ!なななんでもないですよっ!?」  夏樹さんの顔見てたの気づかれてた!?  慌てて窓の外に目を向ける。 「運転してても、雪夜のことは目の端に入って来るからね。さっきからソワソワしてるみたいだけど、トイレとか?」 「トイレっ!?いや、ちがいますっ!大丈夫ですっ!」 「ならいいけど、トイレ行きたくなったら早めに言ってね?一応、道の駅では止まるけど……」 「わかりましたっ!!」  恥ずかしいっ……俺トイレ我慢してると間違われるくらいソワソワしてたの!?  いたたまれなくなって、両手で顔を覆った。   ***  しばらくして、急に夏樹が車を端に寄せて停めた。  何かあったのかと顔をあげると、夏樹がこちらをじっと見ていた。 「どうしたんですか?」 「いや……ふっ……はははっ……ぁはははっ……っ!」  雪夜と目が合うと、夏樹が吹きだしてハンドルに顔を伏せながら爆笑しはじめた。 「え……何ですか!?何笑ってるんですか!?俺なんか変なことしました!?」 「ごめっ……はははっ……だって、あの大きなぬいぐるみ持って電車乗ってたところを想像したらおかしくて……っははは」 「へ?」  あぁ、たしかに、あんな大きいぬいぐるみを抱きしめた男が乗ってきたら、普通みんな引くよね、うん。  実際、電車では雪夜たちの周りはやけに空間が広かった。  もしかしたら、みんなに避けられていたのかもしれない……  って、それよりも夏樹さんはもしかして、さっきからずっとそんなことを考えてたの!?  駅で会った時、夏樹はあの大きなぬいぐるみを見てもなにも聞いてこなかった。  かなりなインパクトがあったはずなのに顔色ひとつ変えずに普通に「おかえり」と笑っていた。  雪夜からぬいぐるみを受け取って、後部座席に座らせてシートベルトを締めたのも夏樹だ。  あまりにも夏樹の反応が薄かったので、雪夜もあえてぬいぐるみのことには触れずにいたのだが……  ツボにハマったのか、夏樹はまだハンドルに突っ伏して笑っている。  そういえば……最近は雪夜のバカな行動のせいで夏樹にはいろいろと心配をかけまくっていたから、こんなに爆笑している夏樹を見るのは久しぶりだ……  夏樹が笑っているのが嬉しくて、雪夜までつられて笑えてきた。 「ふふ……周りで見てた人たちはびっくりしたと思います。小さい子が持ってたら可愛いけど、俺みたいにいい年した男がぬいぐるみ持って乗ってたら、どう見ても不審者ですよね」 「雪夜が持ってても可愛かったよ?」  夏樹が急に笑いをひっこめて顔をあげると雪夜を見た。  も~……そういうことを真顔でサラッと言ってくるんだよな~……  でも笑ってるってことはやっぱり俺が持ってたのが変だったってことじゃないの?  知らず知らずのうちに頬が膨らみ口唇が尖ってくる。  夏樹が、口元を綻ばせたまま手を伸ばして雪夜の頬をムニッと軽く挟んできた。 「ふぁんふぇふふぁ(なんですか)」 「ん~?雪夜があまりにも可愛い顔してるから?」 「ふぁ!?」  いや、今俺めちゃくちゃむくれてたし!!可愛い顔なんてしてなかったでしょ!? 「さてと、笑いも収まったし行くか」  夏樹は雪夜の顔を見てふわっと微笑むと、車を出した。   ***

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