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どんなに暗い夜だって… 7-6(雪夜)
「ぬいぐるみは、えっと……帰りに遊園地の近くでイベントみたいなのをしてて、じゃんけん大会に参加したら3位になったんですよ。で、その景品があの子です」
「じゃんけん大会!?そんなのしてたんだ?」
「はい!子どもがほとんどでしたけど、大人も参加していいって言ってたんで、みんなで参加してみたら……なんか勝っちゃって」
ステージ上の司会者を相手に一斉にじゃんけんをして、司会者に負けたら座っていくという簡単なルールだった。
景品が目的ではなく、なんだか面白そうという軽いノリで参加しただけなので、ある程度のところで勝手に座れば良かったのかもしれない。
だが、雪夜は完全にタイミングを逃してしまい、気がついたら残り三人の中に入っていた。
司会者にステージの上に呼ばれて、その三人でじゃんけんをして、1位~3位が決まった。
「俺ね、ガラガラ回す抽選とかでもいつもハズレばっかりで、ポケットティッシュしか貰ったことがなかったんですよ。だから3位になって、景品がありますって言われた時も、参加賞的な感じでポケットティッシュくれるのかなって思ってたんですけど、司会者の人がこの大きなクマのぬいぐるみを持ってきて……びっくりしたけど、めちゃくちゃ嬉しかったんです!でも……」
雪夜は生まれて初めてハズレ以外の景品を貰えたので嬉しかったが、相川たちに「それ持って帰るの大変じゃないか?」と言われ、我に返った。
そういえば、帰り電車だった……これ持って乗るのはちょっと大変だ……どうしよう……
とりあえず3人で手分けして、ぬいぐるみを欲しそうにしていた子どもたちの親に貰ってくれないかと話をしにいったが、「気持ちは嬉しいけど大きすぎるから……」と全員同じ理由で断られてしまった。
仕方がないので、雪夜が抱っこして持って帰って来たというわけだ。
「そうなんだ。ちなみに、1位と2位は何だったの?」
「え~と、2位がおうちで流しそうめんができるおもちゃで、1位がかき氷器でした!」
「景品が微妙だなぁ~……真夏ならわかるけど、いくら暑くてももう9月後半だし……」
夏樹が1位と2位の景品を聞いて苦笑した。
「ホントだ……暑いからまだ真夏な気分でした……」
言われてみると、景品が微妙だ。
あ、それよりも……
「あの、夏樹さん」
「ん?」
「あの子……中古ショップとかに持って行ったら売れますかね?」
「え?そりゃ引き取ってくれると思うけど……売っちゃうの?」
3位になれたこと、景品を貰えたことは嬉しいけど、居候をしている身であんな大きなぬいぐるみを持って帰るなんて……
かと言って、捨ててしまうのはもったいないし……
「家に置いておけばいいじゃないか。雪夜が3位になった記念なんだし、遊園地に行った思い出にもなるでしょ?」
「でも、大きすぎるから邪魔に……」
「ならないよ。あの子が増えたくらいじゃ何も変わらない。あ、でも、ベッドで一緒に寝るのはダメだからね!?俺の寝る場所がなくなるから!」
「……は、はいっ!ありがとうございます!」
本当は、夏樹さんなら「いいよ」って言ってくれるんじゃないかって半分期待はしていた。
だけど、もし夏樹さんに「邪魔だから捨てろ」って言われたらって……そりゃ、迷惑だろうなってわかってても直接言われると悲しいから、帰る途中に自分で中古ショップに持って行くつもりだった。
雪夜がそう言うと、佐々木たちに「とりあえず夏樹さんに聞いてみろ、売るかどうかはそれからにした方がいい」と言われてしまったので持って帰って来たわけだけど……
売らなくて良かったぁ~……
後で佐々木たちにお礼言っておかないと!
雪夜は心の中で佐々木たちに頭を下げた。
それにしても夏樹さん、自分の寝る場所がなくなるからベッドで一緒に寝るのは禁止って……なんだか可愛い!
そんな心配しなくても、俺が抱きつきたいのは、抱きしめて欲しいのは……夏樹さんだけなんだけどな~……
雪夜は、夏樹の横顔を見て、ふふっと笑った。
***
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