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どんなに暗い夜だって… 7-7(夏樹)

「他には何かあった?」 「え~と、入場ゲートを入ったら――」  雪夜は、他人と話すのが苦手だ。  今まであまり親しい友達を作らないようにしていたせいか、業務的な会話はちゃんとできるのに、自分にあった出来事を話したり、自分の想いを言葉にしたりするのが上手くできない。  遊園地の出来事を話す雪夜は、時系列がバラバラで、あっちに飛びこっちに飛びしている。  聞きながら時系列を整理するのは大変だが、それも慣れればそれほど苦ではない。  それに、ずっと声が弾んでいるので、楽しかったというのはわかる。  大学に入って初めてできた親友たちと、初めての遊園地。  そりゃ楽しかっただろうね~……  別に、俺も一緒に行きたかったとか思ってないよ?  俺はまた別の機会に絶対二人で遊園地デートしに行くし!  だから、雪夜の初めての遊園地の相手が俺じゃないのが悔しいとか全然思ってないっ!! 「夏樹さん?どうかしましたか?」 「え?」  雪夜が、話すのを止めて夏樹をジッと見ていた。  夏樹の思考が脱線していたことに気づいたらしい。 「あ、俺うるさかったですか?」 「いやいや、大丈夫だよ。それで、どうなったの?」 「え~と、その後――」    その後も夏樹はずっと雪夜の話を聞いていた。  話を聞きながら、雪夜が話しを続けやすいように相槌を入れ、問いかけて、続きを促す……  雪夜が夢中になって話すのは、こうやってどこかに出かけた時だけだ。  普段は、聞き役に回ることの方が多い。    夏樹は雪夜と付き合うまではあまり喋る方ではなかった。  今まで付き合った女の子達はおしゃべりな子が多くて、夏樹が黙っていても勝手にどうでもいいことをずっと喋っていた。  よくもまぁそんなに喋ることがあるなと感心しながらも、キンキン声が頭に響いてうんざりするので、適当に聞き流すクセがついていた……  だけど、雪夜は最初から無口で、話しかけると真っ赤になってアタフタして、蚊の鳴くような声で返事をしていた。  付き合って数か月経った頃から何とか普通の音量で話してくれるようになったが、それでも夏樹から話題を振ってようやくちょっとだけ大学での話や自分のことを話してくれる程度だった。  雪夜がそんな調子なので、何となく夏樹がよく喋るようになった。  別に沈黙も雪夜となら全然気まずくならないので黙っていてもいいのだが、夏樹は何とかして雪夜を喋らせたかった。  雪夜の声が好きだからだ。  柔らかいアルトで、歌うように笑う。  特に楽しそうに話しているのを聞くと、何だかこっちまで楽しくなる。  普段からこうやっていっぱい話してくれたらいいのにな…… 「それでね?え~と、佐々木が相川に怒って――」 「そうなんだ。相川も懲りないなぁ――……」  夏樹は涼しい顔で頷きながら、内心は……  一生懸命喋る雪夜の顔をガン見したくてうずうずしていた。  あ~くそ、雪夜の顔が見たい……絶対今めちゃくちゃ可愛い顔してんのに……っ!  誰か代わりに運転してくれないかなぁ~……なぁ、そこのくまさん?  チラリと後部座席のぬいぐるみを見て、自分に苦笑した。   ***

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