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どんなに暗い夜だって… 7.5-6(夏樹)

 裕也(ゆうや)には、雪夜の過去について……特にトラウマに関することについて調査してもらっていた。  調べものに関しては、裕也に頼めばほとんどの情報が手に入る。  どうやって調べているのか詳しいことは知らない。  昔一度聞いたことがあるが、裕也に「教えてもいいけど、(命の)保証はしないよ?」と、無邪気な顔で言われた。  つまり、まともな調べ方じゃないということだ。  それ以来、聞かないようにしている。  世の中、知らない方がいいこともあるのだ。 ***  裕也が調べてくれた雪夜の過去は、夏樹の予想をはるかに超えていた。  簡単に言えば、今現在雪夜が自分のものだと思っている過去の記憶の内容は、ほとんど偽物の記憶だ。  本当の記憶が封印されて、偽物の記憶にすり替えられている。  雪夜の最大のトラウマである暗闇。  雪夜は自分が山で迷子になったせいだと思っているが、それも事実とは少し違うらしい。  むしろ……雪夜の記憶の全てが……始まりと終わりがそこにある…… 「――過去の記憶に疑問を持つようなことがあれば……」  雪夜の主治医が言っていたのはこういうことか……  疑問を持つようなことがあれば……というのは、雪夜が過去の記憶を思い出す兆候が見られた時ということなのだ。  思い出すようなことがあれば……その時俺はどうする?  もし主治医に知らせたとして……雪夜はその後どうなる?  雪夜のためには、どうすればいい?  俺は一体……何をしてやれるんだろう……?  (いつき)たちと今後について話をして、とりあえず裕也たちはもう少し雪夜のことを調べてくれることになった。  斎とはまた後日会う約束をして、店を出た。 ***  地上へと続く階段を上りきると、晩夏の日差しに目を細め、小さく息を吐いた。  俺がしてやれること……  せめて、雪夜が暗闇に囚われないように……自力で抜け出せるように……  夏樹は駐車場とは反対方向にある、なじみのジュエリーショップに入った。 「いらっしゃいませ、お久しぶりですね、夏樹様」  年配の店主が、夏樹を見て嬉しそうに笑った。 「預けてあったものを取りに来ました」 「承知いたしました。今お持ちします」  店の奥に消えた店主が、しばらくして小さな箱を持って帰って来た。 「ようやく決心がつきましたか?」 「まぁね……」  店主は、夏樹がどれだけ悩んでを買ったのかを知っている。   「あなたが初めて自分の意思で選んだものです。きっと想いは伝わりますよ」  いたずらっぽくウインクする店主に軽く苦笑しながら小さな箱に入ったを受け取ると、雪夜を迎えに駅に向かった――……   ***

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