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どんなに暗い夜だって… 番外編2-3(雪夜)

 食事は家でする方が好きだけど、夏樹さんと出かけられるのはデートみたいでちょっと嬉しい。  外食が減った分、たまにする外食では、普段夏樹が作らないものや、ちょっと変わった料理を食べに行くことが多い。  夏樹曰く、料理のレパートリーを増やすためらしい。  なぜだかわからないが、こうやって食べに来て雪夜が「美味しい」と言ったものは数日後には食卓に同じものが並んでいる。  全く意味がわからない……夏樹さんの舌は一体どうなっているんだろう……  今日は、夏樹の希望でタイカレーを食べに来た。  夏樹が作ってくれるカレーも十分美味しいのだが、夏樹は、いろんな店のカレーを食べて、もう少し家で作るカレーを改良したいのだとか。  隠し味とかスパイスとかいろいろと店によって違うらしい。  ちなみに、雪夜にわかるのはカレー味ってことだけだ。  あ、後は肉の違いとか、辛さとか!? *** 「美味しくなかった?」 「え!?」  夏樹に話しかけられて、手が止まっていることに気がついた。  何やってんだ俺!せっかく夏樹さんと食べに来てるのに…… 「ごめんなさい!ちょっとボーっとしちゃってて……えっと、何の話でしたっけ?」  急いで食べながら、夏樹を見た。  何か話していた気がするが、全然耳に入ってきていなかった。  最近こういうことが増えた気がする。  プレゼントのことを気にしすぎなのかなぁ……  あれ?でも俺今プレゼントのこと考えてたっけ……? 「いや……話は別にたいした内容じゃないからいいけど……雪夜、本当に具合悪くないの?」  夏樹が雪夜の頬をそっと撫でた。  これが家なら……多分抱き寄せられている。  夏樹は外でもあまり気にしないが、雪夜が周囲の目を気にしてしまうので、一応外では少しスキンシップを控えてくれている。   「はい、元気です!!」  言ってから、何だか小学生みたいな返事だったなとチラッと思った。 「あ、あの、俺は大丈夫ですよ?本当に!」 「そう……?」  ちょっと心配そうな顔をしていた夏樹が、チラッと視線を落とした。  え?  夏樹から視線を逸らすのは珍しいので、何となくショックを受けた。  俺なんていつも目を逸らしてばかりなのに……  ちょっと夏樹さんに逸らされたくらいでショックを受けるなんて自分勝手すぎる…… 「あのね、雪夜、バイトのことだけど……」 「え?あ、はい……」  夏樹が浮かない顔をしているので、何を言われるのかと身構えた。  バイトのことって何!? 「佐々木くんたちとも話し合ったんだけど、緑川のことはもう心配ないし、雪夜も落ち着いてきてるみたいだから……大学が始まったらまたバイトも再開してみる?まぁ、まだ長期は心配だけど……短期なら……」 「いいんですかっ!?……(いて)っ!」  思わず膝を乗り出してテーブルにぶつけた。 「ええ!?大丈夫!?」 「だ、大丈夫です……!ちょっとぶつけただけ……えっと、それより!バイトまたやっていいんですか!?」  またバイトが出来るなら、とりあえず昼飯代とか携帯代といった必要最低限の出費は自分で何とかできる!  短期バイトだと、期間は短くても時給が高いバイトも多いから、いっぱい入れれば少しは貯金する余裕も出て来るかも――…… 「でも、条件があるよ」  さっそく思案を巡らせていると、夏樹が雪夜に向けて人さし指を立ててにっこり笑った。 「条件?」 「まず……遅くなるのはダメ。せいぜい21時くらいまでかな。家や大学から遠いのはダメ。危ないのもダメ。お酒を呑むお店もダメ。後は――……」  夏樹の口から、次々に条件が飛び出して来る。  え、ぇえ!?待って……条件多すぎじゃないですか……?  ぅ~~……でも、緑川先生のことでみんなに心配かけちゃった俺が悪いんだし、仕方ないか…… 「――とにかく、防犯ブザーを常に持ち歩けるようなバイトにして?それから、お願いだから、何かあったら俺にすぐに教えて!」 「はい!」  雪夜は元気良く返事をした。 「……いいお返事だけど……雪夜君はホントにわかってるのかなぁ~?」  夏樹が訝しげに雪夜を見ると、ため息を吐いた。 「わ、わかってますよ!……でも帰ったら今の条件全部紙に書いて貰っていいですか?覚えきれないっ!!」 「ははは、わかった。書き出しておくね」  夏樹さんたちに迷惑かけないように、早くバイト探さなきゃ!! 「あんまり張り切りすぎないようにね。ゆっくり探せばいいよ」 「はい!」  夏樹は、早くバイトを探そうと意気込む雪夜を複雑な表情で見ていた。 ***

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