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どんなに暗い夜だって… 番外編2-4(雪夜)
……とは言っても……そんな条件に合うバイトなんてなかなかないよね……
雪夜は、次の日からバイトを探し始めた。
もちろん、家で。
求人サイトを見ると、バイトの求人はたくさんある。
が、夏樹に出された条件を入れていくと、表示される件数はどんどん減っていく。
「ぅ~ん……これも0件か……」
ただでさえ、自分のトラウマのこともあってできないバイトは結構ある。
人がいっぱいいるところはダメだし、音がうるさいのもダメだから工事現場のようなところで働くのもガードマンの仕事とかも無理だ。というか、体力仕事はあまりできない……
「はぁ~……俺にできるバイト……」
レジ打ちなら出来るが、大学近くのレジ打ちバイトはすぐに埋まってしまう。
少し離れたところに行けばあると思うが、周辺でと言われると難しい……
何かいいバイトないかなぁ~……
***
ソファーに寝転んで休憩していると、佐々木から電話がかかってきた。
「もしもし佐々木?どうしたの?」
「いや、雪夜どうしてるかな~って思って。今日は俺バイトないからさ、良かったら遊ばないか?相川はバイトだし、暇してんだよ」
「遊ぶー!!今どこ?」
「後5秒で着く」
「え?」
その瞬間、インターホンが鳴った。
「着いたぞ~!」
「早っ!!」
電話を切った雪夜は、玄関を開けて佐々木を迎え入れた。
「ちょっと用意してくるね!」
「ゆっくりでいいぞ~」
「うん!あ~えと、適当に座って待ってて?」
「ほいよ~」
佐々木が夏樹の家 に来るのは今回が2回目だ。
前回は、夏樹と一緒に雪夜にお説教?をするため、相川と一緒にやってきた。
普段は、大学に近いというのもあって雪夜が佐々木の家に行っている。
一人暮らしをしていた時も、雪夜の家に佐々木たちが来たのは数える程だった。
親しい友人のいなかった雪夜は、自宅に友人を招 くという経験がない。
夏樹の家 はもちろん自分の家ではないのだけれど、何だか自宅に友人を招いているような気分になって、少しだけテンションが上がっていた。
***
佐々木とは毎日のように連絡を取り合っているが、直接会うのは遊園地に行って以来だ。
昼飯時だったので、とりあえず佐々木と一緒に近くのラーメン屋に入った。
「それでね、何をプレゼントすればいいと思う?」
大学が始まってからと思っていたが、せっかく佐々木に会ったのだからちょうどいいとプレゼントのことを相談してみた。
「プレゼントか~……それって物じゃなきゃダメなのか?」
「え?」
「誕生日プレゼントとかなら、形に残る物がいいのかもしれないけど、今回雪夜が考えてるプレゼントは、要はアレだろ?『初給料で両親に感謝のプレゼント』的な感じの……」
「あ~……うん、そんな感じかなぁ?」
「だったら――」
佐々木は、雪夜が何日も悩んでいた問題にサラッと回答した。
それは雪夜では思いつかないものだった。
「なるほど!!じゃあ、そうしようかな」
「帰る前に買いに行こうか。あんまり早く買うと遊べないし」
「うん!」
「じゃあ、出ようか」
雪夜が先に会計をして店の前で佐々木を待った。
やっぱり佐々木に相談してみて良かった。
今まで悩んでたのは何だったんだろう……
もっと早く相談しておけば良かったなと思いながら何気なく周囲に目を向けた時、斜め前を横切った人の後ろ姿を見て一瞬身体が固まった。
え?……あ、違う。別人だ……
「お待たせ、雪夜、どうした?」
「ひゅっ……ゲホッゲホッ」
佐々木に肩を叩かれて、驚いた拍子に勢いよく息を吸い込んで咽てしまったので、佐々木が慌てた。
「雪夜!?」
「いや……ちょっと見間違い……ゲホッ、ごめん、行こうか!」
「見間違いって……?おいおい、ホントに大丈夫か?お前顔色が……」
「うん!なんでもない!ちょっと咽ただけだよ。食べ過ぎたかなぁ~?アハハ」
心配する佐々木の背中を押して、歩き始めた。
見間違い……自分でそう言ったクセに、手は無意識に防犯ブザーを握りしめていた――……
***
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