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どんなに暗い夜だって… 番外編2-6(夏樹)
「あの……肉じゃなくて何か物の方が良かったですか……?そういえば俺、誕生日プレゼントも食べ物だったし……これじゃ同じですよね……すみませんっ!やっぱり何かもっとちゃんとしたのを用意しますね!……あ、でもでも、せっかく買ったから……これはこれで食べて――」
あ……マズいっ!
「違っ!雪夜、違うんだよっ!!」
夏樹は、雪夜が誤解しているのを感じて慌てて立ち上がった。
「ぅわっ!?」
「おっと、ごめんっ!」
雪夜が突然立ち上がった夏樹に驚いて持っていた肉を落としかけたので、夏樹がサッと受け取ってテーブルに置いた。
危なっ!せっかく雪夜が買ってきてくれたのに落としたら大変!
いや、落としても洗って食べるけども!!
って、それより……
「あ、ありがとうございます」
「ごめん、今のは俺が悪い」
「え、いやいや、大丈夫ですよ!夏樹さんがキャッチしてくれたから落とさなかったし!」
雪夜が両手を顔の前で振りながら、無理やり笑顔を作った。
「いや、肉の話じゃなくて……」
「え……あぁ……えっと、すみません!あの……俺……今貯金ないから……ちゃんとしたプレゼントは次のお給料が入ってからになるんですけど……でも、俺早く次のバイト見つけてまたお金貯めるからっ……!」
早くバイト見つけてお金貯めるから……?
いやいやいや、何言ってるの!?
「他のプレゼントなんていらないよっ!?っていうか、俺のプレゼントのためにお金貯めるとか、そんなことしなくていいからっ!!」
「……え?あの、確かに俺そんな高級なのは買えないけど……でも、あの……ちゃんと買って……って、ごめんなさい……安いプレゼントとか……貰っても迷惑で――……」
雪夜の表情がどんどん曇っていって、くしゃっと泣きそうに崩れる瞬間夏樹から隠すように俯いた。
違う違うっ!!!そうじゃなくてっ!!!そういうことじゃないんだってばっ!!
「全然迷惑なんかじゃない!!違うんだよ、あのね、嬉しいの!!めちゃくちゃ嬉しい!!雪夜が俺のためにいっぱい考えてプレゼントしてくれたんだって思ったら、嬉しすぎて……その……照れてただけだからっ!!」
雪夜の言葉を遮って一息に捲し立てた。
「……ぇ……照れてた?」
雪夜が潤んだ瞳のままキョトンとした顔で夏樹を見上げた。
「え、じゃあ、さっき10秒待ってって言ったのって……」
「あれは……気持ちを落ち着かせたいから待ってってことだったんだけど……」
「……そう……なんですか?……肉がイヤだったわけじゃなくて?」
「そうなんです!!肉は嬉しいからっ!!っていうか、雪夜がプレゼントしてくれるものがイヤなわけないでしょ!?……あ~……いや、でも今のは俺が悪いよね。雪夜に誤解させるような反応しちゃってごめんね?……ありがとう、本当に嬉しい!!」
夏樹が必死に説明すると、ようやく雪夜がほっと安堵のため息を吐いて、嬉しそうに笑った。
その顔を見て、夏樹もほっとする。
はぁ……俺何やってんだよっ!!
余計なこと考えるよりも、雪夜の気持ちを優先させるべきだろうっ!?
――「全くだっ!!雪夜があんたのために用意してくれたプレゼントなんだから、四の五の言わずに素直に受け取ればいいんだよっ!」
ここにいないはずの佐々木の声が聞こえた気がした。
……はい、すみません。
夏樹は雪夜を抱きしめながら、世間の親は子どもの初給料で奢 られる時こういう気分なのかな……とふと考えていた――……
***
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