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どんなに暗い夜だって… 番外編2-8(夏樹)

「雪夜~?焼き加減どれくらいがいい?」  夏樹が下ごしらえをした肉をフライパンに乗せながら、雪夜に話しかけた。  洗濯物をたたんでいた雪夜が、ぴょこんと立ち上がる。 「あ、そのお肉は夏樹さんの分なので、夏樹さんの好みで!!」 「え?これ俺だけで食べていいの?」 「はい!」 「雪夜の分は?」 「あ、俺のは……」  雪夜が冷蔵庫を覗き込む。    他にステーキ肉なんてあったっけ?  付け合わせを作る時に冷蔵庫を見たけれど、夏樹が見た限りでは肉は…… 「コレがあるので大丈夫です!!」 「……え?」  雪夜が出して来たのは、お総菜のからあげだった。 「……」  あ~……なるほどね。確かに肉だね、うん…… 「そっか、わかった。じゃあ、それも温めておくね」 「あ、俺自分でやりますよ!温めるくらいはできるから!」  雪夜が得意気に電子レンジを指差した。    うん、そうだね…… 「うん、じゃあ、洗濯物たたみ終わったら手伝ってくれる?」 「はい!!」  雪夜は元気よく返事をして、洗濯物をたたみに戻っていった。  その姿を見送りながら、顔に貼り付けていた笑顔をため息と共に剥がした。  はぁ~……マジかよ……佐々木ぃいいいい!!!  傍にいたんだろうっ!?なんで止めてやってくれないのぉおおおお!?  俺用の肉だけで貯金使い果たさせてんじゃねぇよ!ばかぁああああああ!!!  そこは二人分ちゃんと買えるように助言してやってくれよぉおお!!  無理に国産和牛じゃなくても、外国産でもいいんだし、2枚入ってるやつでもいいんだし……いくらプレゼントだからって、俺だけステーキで雪夜はからあげって……反応に困るわっ!!!  思わず恨み言をしたためたメールを佐々木に送りかけたが、ぐっと堪える。  多分、あいつのことだから……「そこをうまくやるのがあんたの役目だろう?」とか何とか言って終わりだろうし……  あ~もうくそっ!!! 「あ、ヤバっ!」  頭の中で佐々木に文句を言っていると、危うく肉を焦がしそうになった。  まぁ……肉は切り分けるからいいけど……   *** 「雪夜~!できたよ~!洗濯物たためた?」 「え、もう出来たんですか!?待って、からあげ温める!」  脱衣所にタオルを置きに行っていた雪夜が、慌てて戻って来た。 「もう温めたよ。じゃあ、テーブルに並べるの手伝ってくれる?」 「はい!あれ?……夏樹さん、これ……」 「雪夜、サラダ持って行って?」  雪夜の言葉を遮って、次々にお皿を渡していく。 「あ、はい!あの、でもこれ……」 「スープも」 「は、はい!え、あの……」 「さ、食べようか」 「あの、夏樹さん?俺はからあげ……」  ステーキ肉とからあげが半分ずつ乗った皿を見て、雪夜が戸惑った顔をする。 「俺もからあげ食べたくなっちゃったから、半分ずつにしちゃったんだけど……ダメ?」 「え?いや、それは全然いいですけど……プレゼント……からあげの方が良かったですか?」  雪夜が真剣な顔で夏樹を見つめる。  ん~……そうきたか。   「いや?そういうわけじゃないよ。言ったでしょ?雪夜が選んでくれるものなら、何でも嬉しいって。でもね、どうせ食べるなら、雪夜と一緒に同じものを食べた方がもっと嬉しい。ので、からあげとステーキを半分こね」 「……はい!」  ちょっと考えていた雪夜が、納得したように軽く頷いてにっこり笑った。 「お肉美味しい!」 「うん、美味しいね!」 「やっぱり俺が焼かなくて良かったですね!俺が焼いたら真っ黒だったかも!」 「ん?いやいや、焼くだけならそんなに難しくないから、今度教えてあげるよ」 「ホントですか!?やったぁ!――」  雪夜は以前オムライスを作ってくれたが、その後もちょこちょこ料理を練習している。  その理由が、疲れている俺に代わって晩飯の支度をしてあげたいからだというのだから、うちの子最高。  ホント可愛すぎて泣けてくる。  ただ、一度一人で作っている時に指をざっくりと切ってしまったので、包丁を使う時には俺か佐々木がついていないとダメ!と言うルールを作った。  佐々木からは「いくら何でも過保護すぎる!」と言われたが、帰宅するなりスプラッタ状態の台所とそこに血だらけで座り込む恋人を見つけた時の俺の心境も考えてみて欲しい――……  しぬかと思った……(俺が) *** 「――それでね、佐々木と一緒にゲームセンターに行って――……」 「うんうん、結局その景品取れなかったんだ?」 「そうなんですよぉ~!佐々木も頑張ってくれたけど、あれはガシャンの部分が弱すぎなんです!」 「アームのこと?たまにあるよね。めちゃくちゃ弱いやつ」 「あんなの絶対取れない!」 「ふ~ん……じゃあ、今度一緒に行こうか。俺もやってみたい」 「え~?夏樹さんでもあれは無理ですよ~?」 「やってみなきゃわかんないよ?――」  いつも以上にテンションの高い雪夜に、夏樹の顔も自然と綻んだ――……  雪夜からのプレゼントを二人で味わいつつ、何でもない話をして笑う。  そんな時間がずっと続けばいいと思った…… ***  雪夜と出会ってから、俺の心臓は一体何回止まりかけたんだろう……  いろんな意味でドキドキさせられっぱなしだ。  ねぇ、雪夜。  言葉一つ、プレゼント一つ、表情一つ……で俺の感情をこんなにも揺さぶることができるのは、世界中で雪夜だけなんだよ?  お願いだから……も少し自覚してくださいっ!!――   ***

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