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夜明けの星 2-39(雪夜)

 雪夜が目を覚ますと、タブレットの画面は真っ暗になっていた。  ため息交じりにイヤホンを外そうと耳に触れると、すでにイヤホンはなかった。  寝てる間に外れちゃったのかな……?  カーテンの隙間から見える外はもう明るくなっていた。  今何時なんだろう……何時間くらい眠れたのかな……?  いつもは夏樹さんが起こしてくれるから……  ぼーっとしながらもう一度画面を触ってみるけれど、やっぱり画面は暗いままだった。  夏樹さんの声が……聞きたい……  ずっと聴いていたので、頭の中ではぐるぐると夏樹の歌声が流れているけれど……若かりし日の少し雑音交じりの声じゃなくて、今の夏樹の声が聞きたかった。  今日帰って来る……大丈夫……だいじょうぶ……    数時間後には逢えるとわかっているのに、寝起きのせいか昨日我慢していた分、一気に淋しさが押し寄せてきて……画面に映る自分の瞳から涙が溢れた。  目が覚めて夏樹さんが隣にいないのは……やっぱり淋しい…… 「っ……っなつきさん……」  そっと囁いてみる。 「ん~?なぁに?」 「ひゃっ!?」  てっきり隣で眠っているのは裕也だと思っていたので、背後から返って来た聞きなれた声に慌てて振り向く。 「(いた)っ!」 「あ……え……?」  思ったよりも近いところに顔があって驚く。  というか、背後から抱きしめられていたことに今更気づいた。  抱きしめられている腕に違和感を感じていなかった時点で気づくべきなのに…… 「な……なつきさん……何してるんですか?」  寝起きドッキリって、意外と間抜けな反応しかできないものなんですね……  夢と現実がごちゃごちゃになっているせいか、夏樹がいるなんてあり得なくて驚いているはずなのに、いるのが当たり前だと思っている自分もいて…… 「……なにって……負傷した(あご)(さす)ってる」  振り返って見上げた時に雪夜の頭が当たったらしく、夏樹は顎を撫でながら顔を顰めていた。   「いや、そうじゃなくてっ!え、なんで……あの、帰って来るの夜になるって……あ、顎ごめんなさい!こ、氷、冷やします!?……えと、いつからそこに……あれ、裕也さんは?俺裕也さんと一緒に……」  雪夜は起き上がってベッドの上に座り込むと、キョロキョロと室内を見回した。  裕也の姿が見当たらない。 「まぁまぁ雪夜さん、落ち着きなさいよ」 「おち……落ち着いてますけど、だって、あの……夏樹さんはまだ……っんん!?」  雪夜がパニクっていると、苦笑しながら起き上がってきた夏樹が(うなじ)に手を伸ばしてきて……軽く引き寄せられ口唇を塞がれた。    あ、キス……久しぶりだ……  夏樹がちゃんとキスをしてくれるのは、雪夜が自爆した時以来だ。  雪夜はさっきまで混乱していたのなんかどうでもよくなって夏樹の首に抱きついていた。 「っんぅ……ぁっ……」  夏樹がキスをしながらふんわりと雪夜を押し倒した。  軽く口唇を重ねてスライドさせたり食んだりするような簡単なキスだったが、息つく暇もない程に繰り返されるキスに頭が蕩けそうになる。 「……っ……落ち着いた?話してもいい?」  口唇を離した夏樹がふっと笑って涙を拭ってくれたけれど、キスに夢中になっていた雪夜は一瞬なんの話をしているのかわからなかった。 「……ふぁ……?ぁぃ……」  なに?はなし……?そんなことよりも……もっとキスしてほしい…… 「昨夜雪夜に電話した後、出張先のホテルに浩二さんが来てくれてね、今日の分の仕事交代してくれたんだ。で、そっからすぐに向こうを発って明け方こっちに着いたんだよ」 「……ぇ」  そうだ……夏樹さん出張行ってたんだった……  え、明け方?今何時? 「帰ってきたのがちょうど雪夜が眠った後だったからね、驚かしてごめんね。でもまぁ……俺がいなくて雪夜が泣いてるんじゃないかと思って急いで帰って来たんだけど……雪夜は俺のを見て爆睡出来てたみたいで何よりです。というわけで……ん~~~っもうちょっと寝ていい?さすがに疲れた」  夏樹がそこまで一気に喋ると、大きく伸びをした。 「あ……は、はぃそうですよね!お疲れ様ですっ!」 「どこ行こうとしてるの。雪夜も一緒に寝るんだよ」 「え、でも……」  夏樹の邪魔をしてはいけないと思ってベッドから出ようとした雪夜は、また夏樹の腕の中に引き戻された。 「まだ起きるには早いよ。それに雪夜がいないと眠れない」 「……ぇ?……ふふっ……」 「なぁ~に笑ってんの?」 「なんでもないですよ」  よほど疲れているのか、夏樹が珍しく甘えモードになっていた。  っていうか、夏樹さんもしかして寝惚けてる?  雪夜は夏樹が甘えてくれたのが嬉しくてにやける顔を隠すように夏樹の胸に顔を埋めた―― ***

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