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夜明けの星 2-38(雪夜)

「さてと、それじゃ寝よっか!」  髪を乾かした裕也が、ベッドに腰かけて雪夜を呼んだ。  斎と裕也は、夕方、仕事を終えてから二人揃って来てくれた。 「え、裕也さん一緒に寝てくれるんですか?」 「そだよ~?いっちゃんの方がいい?」  斎は、菜穂子と一緒に反対側の端の部屋を使っている。  深夜でも仕事の電話がかかってくることがあるので、雪夜たちに気を使っていつも離れた部屋を使うのだ。 「あ、いや、そういうわけじゃ……あの、でも俺夜は……」 「灯りついてないと眠れないんでしょ?大丈夫、病院でも付き添ってたんだから知ってるよ~」  裕也が今更という顔でケラケラと笑った。  確かにそうなんだけど…… 「でも、裕也さんが眠れないんじゃ……」 「僕は大丈夫だよ~。っていうか、僕ら基本的にどこでも眠れるからね。訓練の賜物(たまもの)だよ」 「そ、そうなんですか……?」  僕らというのは、お兄さんたちってことかな……?  っていうか、訓練って何の……!? 「やっぱり、なっちゃんがいないと眠れない?」 「……いえ、別にあの……一晩くらいなら……大丈夫です!」 「無理しなくてもいいよ。淋しいなら淋しいって言えばいい」 「……淋しい……です……」  晩御飯の後、夏樹から電話がかかってきた。  仕事の関係で、帰って来るのは明日の夜になりそうだと……  夏樹さんが悪いんじゃないのに、何度も謝ってくれて雪夜を心配してくれていた。   「でもあの……さっき薬飲んだし、今夜は裕也さんたちもいてくれるので本当に一晩くらい大丈夫ですよ!」  淋しいけど……一晩くらい大丈夫にならなきゃ……夏樹さんに頼りすぎだ。  夏樹さんがいないと眠れないので、ちゃんと睡眠薬も飲んでおいた。  後は、目を瞑って朝まで耐えればいいだけだ。 「ふぅ~む……そんな健気(けなげ)な雪ちゃんに、お兄さんがいいもの見せてあげようか」 「え?」 「へへ~……じゃーん!昔のデータ引っ張り出してきたよ~!ほら、おいで~!」  裕也がタブレットを取り出してベッドに寝っ転がった。  画面が見えないので、雪夜も裕也の隣に寝っ転がる。 「なんですか?」 「ふっふっふっ。見てのお楽しみ~っ!ちょっとデータが古いから画質も音も悪いけどね~……再生っと!」  タブレットの画面に、少し画質の粗い動画が流れ始めた。 「……?……あれ、これってもしかして……」 「そう、若かりし日のなっちゃんだよ~!ん~……16~17歳くらいの頃かなぁ?」 「え……ぅえぇえええっ!?若っ!!」  裕也が流してくれた動画は、高校生時代の夏樹が弾き語りをしているものだった。 「アッキーにギター教えて貰って練習してるところだよ~。なっちゃんは別にギターには興味なかったんだけど、愛ちゃんに弾けないことをバカにされたのが悔しくて2日でマスターしたんだよ~。変なところで負けず嫌いだよね~。……ん?雪ちゃんどしたの?」  画面を食い入るように見つめる雪夜を、裕也が心配そうにのぞき込んだ。 「……俺……夏樹さんの歌ってるところ初めて見た……」  ギターが弾けることも知らなかったけど……それよりも夏樹さんが歌ってることに衝撃を受けた…… 「あぁ、なっちゃん歌上手なんだけど、照れてあんまり歌わないからねぇ。動画に残ってるのもこれだけだったし。だからレアだよレア!!」 「もう一回再生してもいいですか!?」 「もちろんだよ~!何回でもどうぞ。リピート再生ボタン押せばずっとリピートするよ~!あ、何ならイヤホンいる?」 「はいっ!!」  被せ気味に返事をして裕也からイヤホンを貰い、雪夜は夜通しそのたった数分の動画を繰り返して観た。  初めて見る高校生の夏樹が新鮮で、初めて聞く夏樹の歌声が意外で、なんだか初めて尽くしに感動し過ぎて胸がドキドキした。  でも何よりも……動画を観ていると少しだけ夏樹がいない淋しさが(まぎ)れた気がした。  雪夜は明け方になってようやくうとうとすることができた。  夏樹の歌声を聞きながらまどろむ雪夜を誰かが優しく抱きしめてくれた気がしたけれど、目を開けて確かめる前に深い眠りに落ちていた―― ***

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