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夜明けの星 1-3(夏樹)
「それで、雪ちゃんはどこの店で打ち上げしてんだ?」
店を出ると、先に出たはずの吉田が待っていた。
「知らねぇ」
「は?」
「聞いてない」
「……なんで?」
「とりあえず、この辺りの店のどっか」
「ざっくりしすぎだろ!ここらに居酒屋一体どれだけあると思ってんだよっ!?」
「仕方ないだろっ!?雪夜は飲み会に行くの久しぶりだし!!」
「え?いや、うん……で?」
吉田が、首を傾げながら夏樹に先を促した。
「だからっ……久しぶりに飲み会行くから、二次会、三次会に行きたいかもしれないだろ?でも俺が店とか聞いちゃったら、雪夜が俺に遠慮して二次会とか行き辛くなるかもしれないだろ?」
「お?お、おう……」
「それで聞くのは我慢したんだよっ!雪夜は酒に弱いから酒は呑まないように言ってあるけど、飲み会に行くことまで禁止する権利は俺にはないし……今まで友達があんまりいなかった雪夜が、ようやく自分から人と関わろうとしてるんだから、邪魔したくない……」
本音としては、飲み会には行かせたくない。
居酒屋なんて酔っ払いだらけだ。
酔っ払うと騒いだり問題を起こすやつもいる。
雪夜は可愛いのでそういうやつらに絡まれないか心配だ……とはいえ、雪夜の行動全てを制限する権利はないので、せいぜい俺に言えるのは酒は呑むなと言うことくらいで……
「ふ~ん……そうか。……で?それなのにどうしてお前はさっきから歩き回ってキョロキョロしてんだ?」
「えっ!?いや、それは……そろそろ一次会が終了する頃だから……もしかしたらこの近くにいないかな~と思って」
「お前……雪ちゃんの邪魔したくない~とか言ってたクセに何で探してんだよ!言ってることと行動が伴ってねぇぞ!?」
「それはそれ!!これはこれ!!俺が食べに行った店が偶然雪夜たちが飲み会してる店の近くで、偶然食べ終わって外に出て来た雪夜と出会う!それなら邪魔したことにはならない!!」
「え~と……うん、夏樹……お前ってやつは……ちょっと待って、俺なんか泣けてきた」
吉田がなぜかやけに慈愛に満ちた表情でこちらを見て来る。
非常に気持ち悪い。
「なんだよっ!!ニヤニヤしながらこっちみんなっ!気持ち悪ぃっ!!っつーかお前もう帰れよっ!!みっちゃん待ってるんだろうがっ!?」
「こんな面白いこと見逃せるかっ!!」
「面白くねぇよっ!!だいたい……今だって適当に歩いてるだけで、本当にどこの店か知らねぇし……」
佐々木に聞こうかとも思ったが……とりあえず、佐々木と相川に雪夜のことは任せたと言ってあるだけに、聞き辛い……
「いや~……ホントお前可愛くなったなぁ~」
「ああ゛っ!?」
「いやいや、今更そんな凄んでもぜ~んぜん怖くねぇし?」
「だから笑うなっつってんだろうがっ!!」
こっちは必死なんだよっ!!いろいろとっ!!
吉田と話しながらも周辺の居酒屋を回ってみたが、なかなかそれらしき団体には出会えない。
まだ終わってないのかな~。それとも、もう次の店に行った?
雪夜を見つけられないことに焦っている夏樹をニヤニヤしながら見ている吉田にイラッとして、尻に蹴りを入れた。
「いってぇ~!だからその足っ!!やめろっつーのっ!」
「お前が笑うからだっ!!笑ってないでお前も探せよっ!!」
「はいはい。……お?なんだ?喧嘩か?」
一本入った通りの方で、何やら騒いでいる声がした。
「あ?そりゃ酔っ払いがいっぱいいればケンカくらい――」
「なぁ、あれ絡まれてるのって雪ちゃんじゃないか?」
「え、雪夜っ!?」
吉田に言われて騒いでいるやつらをよく見てみると、さっきは陰になって見えなかったが絡まれているのは確かに雪夜だった。
「あ、おい夏樹っ!?手加減忘れんなよ~!」
夏樹は雪夜の顔を認めた瞬間、走り出していた――
***
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