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夜明けの星 1-5(夏樹)
「おいおっさん!いい気になってられんのも今のうちだぞ!俺らに手出してタダですむと思うなよ!?」
「ほぉ~?おい吉田、聞いたか?イマドキの若い者がこんな時代錯誤 な台詞を言うなんて……おっさんちょっと感動したわ~!」
「確かにな、俺も久々に聞いたなそのセリフ」
「調子に乗んなっ!!いいかっ!?聞いて驚けっ!俺らの後ろにはな――……」
聞いて驚けって何だよ!!ここ笑うところか?いや、絶対笑わせようとしてるよな!?
ツッコミたくてうずうずしている夏樹をよそに、さっきから夏樹たちに一生懸命突っかかって来ているリーダー的な存在の男が、携帯を取り出しながら脅すようにこちらを見た。
弱いクセにやけに強気なこいつらの態度に、薄々そんな予感はしていたけれど……
夏樹は手を前に出してリーダー?の言葉を遮った。
「あ~……ちょっと待った!何?お前らの後ろに何がいるって?とりあえず先に聞かせて?ヤンキー?半グレ?族?組?」
「ぁあ゛!?く、組だよっ!!」
「……はぁ~~……」
夏樹は思わず舌打ちをして大袈裟にため息を吐くと額に手を当てた。
せめて族とか半グレだったら良かったのに……いや、よくないけど……どれにしても面倒臭い事には変わりない。
「なんだよ、ビビってんのか?ははっ、今ここで土下座して謝ったら許してやらなくもないけど?……どうすんだ?」
「何言ってんだバカ!それはこっちのセリフだ。お前、組の名前を出すことの意味わかってんのか!?いや、わかってねぇんだろうけど……あのな、そういうのは軽々しく口にするものじゃないんだよ?」
「は?誰がバカだこの野郎っ!よく聞けよっ!俺が電話一本かけるだけでなぁ~!白季 組の――」
「……ァあ゛っ゛!?」
「ヒッ……!?」
リーダー?は夏樹の忠告を完全に無視して意気揚々と組の名前を叫んだ。
だが、その名前を聞いた瞬間、夏樹が殺気のこもった眼で睨みつけたせいか、その迫力に押されて言葉を詰まらせた。
「吉田ぁ~……今何か聞いたか?」
「ん?いや?俺はな~んも聞いちゃいねぇよ?」
「そっか、だよな。俺の聞き間違いだよな?」
ははは、と夏樹が乾いた声で笑うと、吉田が急いで若者たちに立つよう急かした。
「おい、君たち。俺たちは何も聞いてない。そういうことにしてやるからさっさとこの場から去りなさい。いや、これホント冗談抜きで。長生きしたかったらもうこんなこと辞めて真面目に生きた方がいいぞ?」
吉田が若者達に向かって、優しく語りかけた。
「ほらほら、早く逃げろって!!今ならまだ逃げられるぞ?」
「さっきからグダグダうっせぇんだよっ!!殺んぞこらっ!!」
夏樹が急に静かになったことと、吉田がやけに逃げろ逃げろと促してくる様子を、ビビっていると勘違いしたらしいリーダー?が折りたたみナイフをポケットから出してちらつかせた。
う~ん……こいつ何歳なんだろう?
20歳 は過ぎてると思うんだけどなぁ~……おこちゃまだなぁ~……
どう見てもちょい悪ヤンキー(中学生版)レベルなんだが……
人の親切を素直に受け取らない若者は、身を亡ぼす。
っつっても、若いからわかんねぇだろうなぁ~……
あ~あ、今朝から感じていた嫌な予感はこれのことか……
夏樹は前髪をかきあげてガシガシと掻きながら天を仰ぐと、深い息を吐いた。
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