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夜明けの星 1-6(夏樹)
「……あ~~~くそ面倒臭ぇ!!!おい、そこのお前っ!どうせその組の下っ端とか言うやつと知り合いとかだろ?呼び出せよ。待っててやるから」
夏樹は手っ取り早く終わらせようと、リーダー?に指図した。
こいつと話しても意味がない。
どうせこいつ自身は直接関係ないだろうし……
それよりも、こいつの裏にいるやつが気になる……
「お、おう……逃げんなよっ!?」
「待っててやるっつってんだろっ!!早くしろっ!!」
威勢よく刃物をチラつかせていたリーダー?は、夏樹の言葉に戸惑いつつ、迫力に負けて言われるままどこかに電話をかけ始めた。
他のやつらは、リーダー?と夏樹たちのやり取りを困惑しながら眺めていた。
それを横目に、夏樹は佐々木たちを見た。
「佐々木、後は俺らが片づけておくから、もう行っていいぞ」
「え!?でも、何かヤバいんじゃないの!?警察呼んでおこうか?」
「いや、大丈夫だ。ただ、お前らがここにいるといろいろと面倒なんだよ。雪夜のこと頼んだぞ?」
「わかった、でも気を付けろよ?あんたに何かあったら雪夜が悲しむから!」
「はは、大丈夫だって。終わったら連絡入れるけど、もしかしたら今日は雪夜を迎えに行けないかも……その時は佐々木のとこに泊めてやってくれるか?」
「それはいいけど、ホントに大丈夫なの?」
「あぁ、あのアホ共は全然大丈夫だ。ただまぁ、ちょっとな……外せない用事ができたから」
「……わかった。じゃあ、後で。絶対連絡してこいよ!?」
佐々木の言葉に軽く手を挙げて返事をしながら、一足先に雪夜の元へと走った。
***
「雪夜、ちょっと佐々木たちと飲みにでも行っててくれる?」
「え?夏樹さんは?」
「俺はあいつらと話しをしなきゃいけないから」
「でも……何か話が通じるような相手じゃなさそうですけど……」
「大丈夫だよ。俺そういうの得意だから。ところで、雪夜はあいつらに何かされた?」
「あ~、えっと、手首を引っ張られたくらいですよ?何かされる前に夏樹さんが来てくれたから」
「そっか、間に合って良かった」
夏樹がポンポンと頭を撫でると、雪夜がほっとしたように微笑んだ。
そっかそっか、手首をねぇ……え~と、どいつだっけ?そいつ後でシメておこう……
「それじゃ、また後で連絡するよ」
「……夏樹さん」
雪夜が不安そうに呟くと視線を泳がせながら、ちょっと俯いた。
ツンツンと夏樹の服の袖を掴んで引っ張る。
んん?
「夏樹さん……俺……残っちゃダメ?」
雪夜が泣きそうな顔で夏樹を見上げた。
え、何それ、可愛っ!!!
雪夜さん、誘ってる?
外だし人目があるしで雪夜が嫌がるだろうと思って一応自制してるんですけど……?
「ダメだよ、そんなこと言われると抱きしめたくなるでしょ!」
頬が緩みそうになるのを我慢して雪夜の耳元で囁く。
普段なら、これで雪夜が真っ赤になってあわあわするはず……が、今夜は少し違っていた。
真っ赤になるどころか、雪夜がちょっと唇を尖らせ不満そうな顔をしてぎゅっと抱きついてきた。
「え、雪夜!?どうしたの?」
外でイチャつくの嫌がるクセに……
雪夜が夏樹に抱きついた瞬間、少し離れた場所にいた女の子たちから何やらキャーッという悲鳴のような歓声が聞こえた気がしたが、叫びたいのは夏樹の方だ。
雪夜から抱きついてくるなんてっ、どういうことっ!?
「俺、夏樹さんと一緒にいたい……っ」
「……雪夜、大丈夫だよ本当に。危ない事はしないから!約束するよ。だけど、雪夜たちがいると、もしかしたら巻き込まれちゃうかもしれないから……佐々木たちとどこかの店に入っててくれた方が俺も安心できるし、だからお願い。ね?」
「ぅ~~……」
雪夜が唸りながら夏樹の胸元に顔を埋めてイヤイヤと言うように顔を左右に振った。
雪夜がこんなにワガママを言うのは珍しい。
でも多分、俺を心配してのことだと思うと何だか嬉しい。
思わず顔が綻ぶ。
離れなきゃと思うのに、離したくなくて、夏樹も雪夜を抱きしめていた。
あ~もう、こいつら放っておいて、このまま雪夜を家に連れて帰ろうかなぁ~……
そんなことを考えていると、佐々木と目が合った。
ど~すんだよ?という目で見て来る佐々木に苦笑いをする。
「ね、雪夜。後で聞いて欲しい話があるんだ」
「話?」
「うん」
「やだ……そんなフラグ立てないで下さい……」
「はは、フラグじゃないから大丈夫だって。でも、雪夜に話す前にちょっとね、片づけておかなきゃいけないことがあるから……それまで待っててくれる?」
「やだぁ……」
「やだ?困ったなぁ……」
ホント困った……今日は雪夜が5割増しで可愛すぎる……っ!!
ダメだこれ、ちょっと佐々木たすけ――
夏樹が佐々木に目で助けを求めようとした時、背後に誰かが近付いてくる気配がした。
「路上でイチャついてんじゃねぇぞこらぁ!!」
突然の怒鳴り声に、みんな一斉に声のした方を見た。
夏樹以外は。
夏樹は聞き覚えのある声だったので、ふっと笑うとゆっくりと顔だけ振り返った――……
***
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