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夜明けの星 1-7(夏樹)

「お久しぶりです。(たかし)さん。あれ?(いつき)さんも一緒ですか?」  夏樹が振り向くと、夏樹の兄的存在の隆と斎が立っていた。 「おう、ちょっとな」 「ナツ、こんなところで何やってるんですか?」  斎が少し首を傾げながら夏樹を見た。  前回会った時とは口調が違う。斎がこういう口調になっている時は仕事モードだ。  斎が仕事モードで隆と一緒にいるところを見ると、どうやら副業の方で何かしていたらしい。 「うっす!お久しぶりです、隆さん、斎さん!」 「お~!!久しぶりだなぁ~!!え~と、お前……誰だっけ?」 「そりゃないっすよ~!!吉田ですっ!!よ~し~だ!」  吉田が、ガクッとつんのめった後、隆に思いっきり自己アピールをした。 「あぁ、吉田か。何だよ、お前だいぶ筋肉落ちたんじゃねぇの!?」 「そうなんですよね~……社会人になってからあんまり鍛えてないんで――……」  吉田は高校時代から夏樹とよくつるんでいたので、隆たちとも面識がある。  特に、高校時代柔道をしていて身体を鍛えることが趣味だった吉田は、同じく鍛えることが趣味の隆と気が合い、二人でよく筋肉談義をしていた。 「それで、何があったんですか?」  さっそく筋肉談義を始めた二人をよそに、斎が夏樹に話しかけてきた。 「それが……こいつらが雪夜たちに絡んで来たらしくて……――」  夏樹はザっと状況を説明した。 「――そうですか……それは気になりますね」 「とりあえずこいつらの上にいるやつを見てみようかと」 「……私も一緒にいてもいいですか?ちょうど今調べていることが関係してるかもしれないので」 「え?それは構いませんけど……あ、でもちょっとその前に、雪夜たちをどこか安全なところに連れて行って貰えないですか?ここにいられると、その……いろいろと……」 「あぁ、わかりました。ちょっと待ってください、ユウたちも近くにいるから呼び出しますね」 「すみません、お願いします」  斎が連絡すると、5分もしないうちに裕也たちがやってきた。 「じゃあ僕は、みんなを安全なところに連れて行けばいいんだね?」 「はい、あいつらの目的がよくわからないんで……」  ただ適当に目についたから絡んできた……だけならいいのだが…… 「わかったー。それじゃ、みんなはこれからどうしたい?」  裕也が学生たちに話しかけると、学生たちはみんな困惑して顔を見合わせた。 「飲み会の続きする?それか、今日はもう帰る?」 「あ、すみません、意見まとめるんでちょっとだけ待って貰っていいですか?」 「はいはーい」  相川と佐々木が間に立って、学生たちの意見をまとめていく。  まぁ、あの二人に任せておけば大丈夫だろう。 「ところで、雪ちゃんは何やってるんですか?」 「え?」  斎に聞かれて、夏樹はまだ雪夜が自分の腕の中にいることを思い出した。  雪夜が斎の言葉に少し身体を硬くした。  少し前から斎には雪夜のカウンセリングをしてもらっている。  カウンセリングと言っても改まったものではなく、今のところは夏樹と一緒に斎の家に遊びに行って食事をしながら世間話をする程度だ。  自然な状態の雪夜を見るためにカウンセリングだということは話していないので、雪夜は単に夏樹の友人夫婦と食事をしていると思っている。 *** 「あ~えっと……俺から離れたくないみたいで……」 「へぇ~?雪ちゃんが離れたくないって言ったんですか?」 「はい」  斎が少し眉を上げると、夏樹にしがみついている雪夜を覗き込んで、頭をポンポンと撫でた。 「雪ちゃん?斎です、覚えてますか?」 「……はぃ」 「あのね、ナツのことが心配なのはわかりますが、少しだけナツを信じてやってくれませんか?」 「……夏樹さんのことは……信じてます」 「ナツが大丈夫だって言ったら大丈夫なんですよ。それに、私たちもいますからね」 「俺がいちゃ……ダメ?夏樹さん、危なくない?」  ダメってことはないけど……あんまり雪夜には見せたくないんだよな~…… 「ナツ、もしかして、雪ちゃんにまだ言ってないんですか?」 「あ~あの……機会がなくて……」  突然矛先がこちらに向いて、焦った夏樹は視線を泳がせた。  そんな夏樹を見て、斎がため息を吐いた。 「まったく……何をやってるんですか……!」 「これが片付いたら話しますよ」 「当たり前ですっ!何なら今すぐにでも……と言いたいところですが、今は時間がないので仕方ないですね。雪ちゃん、ナツを信じてるなら、今は裕也たちと一緒に行ってください」 「……」 「まったく……ホントうちのと似てますねぇ……雪ちゃん?――……」  斎が苦笑しながらやれやれというように小さく息を吐くと、雪夜の耳元で何やら囁いた。  一瞬夏樹に抱きついている雪夜の腕が強張って、その後、ゆっくりと夏樹から離れた。  ん~?斎さん一体何言ったんだ?  この人、仕事モードの時は口調は丁寧でもドライだからなぁ…… 「……はい」 「よし、良い子ですね。大丈夫、ナツは必ず私が雪ちゃんのところに連れて行きますよ。約束します」 「はい……」  雪夜はグッと口唇を噛みしめて、佐々木の元に走って行った。 「なぁ~に言ったんですか?」 「ん?今自分がするべきことを考えるよう言っただけですよ」 「あぁ……」  絶対にそれだけではないと思うが……とりあえず、雪夜が納得したならいいか……?  でもさっき俺の方を見てくれなかったのが気になる……  え、それって雪夜納得してないってことじゃないの!?  斎さんホント何言ったんだよ!?  どうやら学生たちの話も纏まったようで、帰宅組と二次会カラオケ組に分かれるらしい。  それぞれに裕也たちが分かれて送って行ってくれることになった。 「よろしくお願いします」 「はいはーい、任しておいて~」  夏樹は軽く手を振りながら去って行く裕也たち一行を見送りながら、小さくため息をついた。  雪夜が一度もこっち見てくれなかった……もしかして、怒ってる……?  くっそ……こんなのさっさと終わらせて迎えに行こう……   ***

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