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夜明けの星 1-9(夏樹)
夏樹は携帯を取り出し、電話をかけた。
「あぁ、夏樹です。瀬蔵 のおっさんはいますか?」
「夏樹さん、お久しぶりですね。神川 です。いらっしゃいますよ。代わりますか?」
「はい、ちょっと代わってください」
「……なんだ?」
「俺です、お久しぶりです」
「俺ぇ~?そんなやつぁ知らねぇなぁ。どちらさん?」
「白季司 ってガキ知ってますか?」
「何だよ藪から棒に。誰だそれ?」
「あんたの息子だそうですよ?」
「ああ?何の冗談だ?俺の息子は一人しかいねぇよ」
「そうですか、わかりました」
「え、もしかして用件ってそれだけか!?久々にかけてきたと思ったら……お前たまにはこっちに顔出せよ!!愛ちゃんが淋しがってるぞ」
「わかってますよ。後でそっちに顔出します」
「絶対に来いよ!?愛ちゃんに言っておくからな!?」
「はいはい、今忙しいのでまた後で……」
通話を切った夏樹に、自称白季司が頬をひくつかせながら恐る恐る声をかけてきた。
「……え?おい、お前今どこに……いや、あのどちらに電話を……?」
「お前の親父。でも残念ながら、白季組の組長はお前のことなんざ知らねぇってよ」
「……え゛!?いや、そんなまさか……っていうか、お前は……いや、あの、あなた様は一体……もしや白季組の……?」
「俺?俺はまぁ……ちょっと白季組に縁があるだけの一般人だよ。ちなみにうちの構成員の顔は全員覚えてるけど、お前の顔は見たことねぇな」
「げぇっ!?」
自称白季司の顔から一気に血の気が引いていく。
一緒に来ていた仲間らしきやつらも、困惑した顔で自称白季司と夏樹たちを交互に見ていた。
それを横目に、斎がのんびりと夏樹に話しかけてきた。
「瀬 ちゃんは元気でしたか?」
「はい、あのおっさんはまだまだ元気ですよ。しばらく連絡入れてなかったんで、拗ねてました」
「ちゃんと顔見せに行きなさい。瀬ちゃんが拗ねるとこっちにまでとばっちりが来るんですからっ!」
「すみません……おい、白季司。どこに行こうとしてるんだ?」
斎と話している隙をついて自称白季司がこっそり夏樹たちから離れようとしていたので、すかさず首根っこを摑まえる。
「ぐえ゛っ!?ゲホッゲホッ……あ~いや、あの……えっと、ですね……多分聞き間違い……そう!俺、いや、僕の名前は白川司 ですっ!!そんな、組長とかヤクザだとか僕にはなんのことだかっ!!アハハハ!」
「さっきはっきりと言ったよなぁ?『白季組の組長は俺の親父だ』って」
夏樹が優しく言うと、白川がガクガクと震えだした。
「あわわわ……すすすすみませんでしたああああああ!!!それはあの、若気の至りというかですね、ちょっとかかかかっこいいかなぁって……」
「はいはい、ちゃんとお話ししてもらいましょうか。あなたにはいろいろと聞きたいことがあるんですよ」
必死の形相の白川に、斎がにっこり笑いかけた。
「斎、こいつらはどうする?」
隆の声に振り向くと、隆は一人で残りのやつらをさっさと倒してひとまとめにしていた。
まぁ、この程度なら一人でも楽勝だよな。
「ここにいると邪魔ですから……あっちの路地に入りましょうか。ちょうどいい廃工場があるんですよ」
斎が爽やかに言うと、それを聞いた白川たちが涙目になった。
「あああの、命だけはっ!!たたたたすけてくださいいいいっ!!」
「それは、あなたたちの返答次第ですね。ちゃんと答えてくれたら考えてあげますよ」
「はいっ!!何でも答えますっ!!嘘偽りなく答えますぅううううう!!!」
白川が首がもげそうなくらい頷いた。
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