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夜明けの星 1-11(夏樹)
――夏休みが明けて久しぶりの大学生活に身体が慣れてきた頃、雪夜が学祭の準備でしばらく帰りが遅くなると言ってきた。
学祭では、学部、学年、サークルなどでそれぞれ店を出したり催し物をしたりして参加するらしい。
参加を強制されているわけではないが、結構参加率はいいのだとか。
去年はまだ付き合い始めたばかりで、確か学祭が週末の三日間だったからその週は会えなかったんだっけ……
学祭を見に行こうかと思ったけれど、雪夜に「いやいや、大学に夏樹さんが来たら大騒ぎになるからダメです!!」とよくわからない拒否られ方をしてしまい、仕方なく断念したのだった。
***
「今年はどんなことするの?」
「あ~……えっと、去年と同じ……ですよ?」
雪夜が視線を泳がせながら、歯切れの悪い返事をした。
「俺、去年行ってないからわかんない。教えて?」
「えっと、ゼミの先輩の手伝いです」
「うん、内容は?」
「あ~……ちょっとしたイベントのお手伝いです」
何が何でも詳しい内容は言いたくないって感じだな。
何でそんなに言いたくないんだ……?
「何時から?今年は行ってもいい?」
「え!?ダメダメダメ!!!ぜっっっっったいにダメですっ!!!」
雪夜が両手を前に突き出して手と顔を全力でブルブルと振った。
「なんで?」
「あ~えっと、その……ほら、夏樹さんカッコいいから……人がいっぱいいる所に夏樹さんが来たら、大騒ぎになっちゃうでしょ?」
「去年もそう言ってたけど、俺わりと人混みにいても大丈夫だよ?デートでも人混みの中にいても騒ぎになんかならなかったでしょ?」
「とにかくダメなものはダメですっっ!!!」
今年こそは見に行きたいと思ったのに、こんな感じで、何をするのかいくら聞いてもはぐらかされて、やっぱりよくわからない拒否られ方をしてしまった。
***
「で、俺に聞いてきますか……」
「だって、雪夜教えてくれないんだもん……」
電話の向こうで佐々木がため息を吐いた。
「だもんって……う~ん、別に教えてもいいけど、でも俺、雪夜に嫌われたくないしな~……」
「何だよ、学祭ってことは外部の人間もいっぱい来るんだろ?俺だけ行っちゃダメなんておかしいだろ!」
「あ~いや、そういう問題じゃなくて……」
「どういう問題だよ?」
「あんたに来られるのが嫌なんだよ」
「……俺?」
「そう」
「俺だけ?他のやつはいいのに?……え?」
それって、どういうこと?
え、俺実は嫌われてるの!?
「あ~勘違いすんなよ?嫌いとかそんなんじゃないからな?」
「じゃあなんで……?」
「う~ん……俺たちが準備を手伝ってるイベントが問題なんだと思うよ。まぁ、いいか。わかった時間言うよ。ただし、こっそり見に来いよ?絶対に雪夜に見つからないように!!」
「わかった!!」
こうして何とか佐々木から聞き出して、夏樹は雪夜に黙ってこっそり学祭を見に行った。
***
――学祭当日。
最初は一人で行くつもりだったのだが、話を聞いた吉田が行ってみたいと言い出して、二人で行くことになった。
佐々木から、絶対に雪夜に見つからないように、と釘を刺されているので、一応二人とも目立たないように地味な恰好をして、帽子とサングラスとマスクを……したものの、逆に怪しくて目立つことに気付いてとりあえずマスクは外した。
「雪ちゃんは一体何のイベントの手伝いしてるんだ?」
「わからん。いくら聞いても教えてくれないから……でも、手伝いってことは裏方だと思うんだけど、何で俺が来ちゃいけないんだろう……」
「さぁなぁ……いや~それにしても、学祭なんて何年振りだ?懐かしいなぁ~……あ、焼きそばください!」
吉田は片っ端から店を覗いては次々に目についたものを買っていく。
気がついたら、両手いっぱいに食い物を持っていた。
「お前……どんだけ食うつもりだよ……」
「だって、学生が頑張って売ってるの見たら、貢献してやらなきゃって思うだろ?」
「だからって一気に買い過ぎだろっ!!」
「ふぉふぁふぇふぉふうふぁ ?」
「あ~もういいから、早く食え!!」
夏樹は、口の中に焼きそばをいっぱい詰め込んでいる吉田を見て、軽くこめかみを押さえてため息を吐いた。
佐々木から聞いていた時間まで後20分程だ。
吉田を適当なベンチに座らせておいて、一人でウロウロすることにした。
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