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夜明けの星 1-12(夏樹)

 大学構内の中央にある広場に特設会場が出来ていたので、イベントをするという場所はすぐにわかった。  今はダンスサークルのステージらしい。  それにしても雪夜たちが手伝っているというイベントは一体何なんだろう? 「これの次って何?」 「えっと~……手話サークルだってさ」 「へぇ~……」  近くにいた大学生らしき二人組が何やら薄い冊子を見ながら話していた。  あ、そういえば入口でなんか貰ったな。  入口で貰ったパンフレットを見てみると、ステージのタイムテーブルがあった。  佐々木に教えて貰った時間を見てみると…… 「は?ミス&ミスターコンテスト?」  そこには、『ミス&ミスターコンテスト最終選考』とあった。  一日目、二日目で予選をし、最終日の今日は最終選考で優勝者を決めるということだった。  大学ではよくあるイベントだ。  夏樹の大学時代はたしか夏樹が四年連続総合優勝して殿堂入りを果たした……らしい。  夏樹自身はミスターコンテストなど興味がなかったので、一度も出場した覚えはない。  学祭は、一日はとりあえず店を回っていたが、歩いていると女の子たちに声をかけられて鬱陶しいのでだいたいコンテストが始まる頃にはもう大学構内から消えていた。  夏樹が卒業後も『出場していないのに四年連続投票数がダントツ一位で優勝』ということでは記録はいまだ破られていないらしいが、正直どうでもいい。  というか、これに雪夜も出るのか?  そんなの雪夜が優勝に決まってんだろ。  いや、でも雪夜は手伝いをしてるだけって言ってたんだから、出るならそんなこと言わないよな?  じゃあ別に俺が来ても問題ないじゃないか。  俺に来られたくない理由って何なんだ……  夏樹が悶々としている間にも、ステージ前には人がどんどん集まって来ていた。  佐々木に釘を刺されているので、あまり前には行けない。  幸い、夏樹も吉田も平均より背が高めなので、無理に前で見なくてもステージはよく見える。  こういう時は背が高くて良かったと思うな。  まぁ、これだけ人込みに紛れていれば、雪夜に見つかることはないだろう。    ステージから少し離れた場所で立っていると、吉田がやってきた。 「もうすぐか?何か人スゴイな」 「お前……さっきの全部食ったのか?」 「うん、食ったよ?うまかった!」 「そりゃよかったな」  吉田が大食いなのは知っているが、さすがにあの量をこの短時間で食べたのかと思うと夏樹の方が胸やけしそうだった。 *** 「お、そろそろだ!」 「くるぞくるぞ~!」  ミス&ミスターコンテストの一つ前のステージが終わると、途端に学生たちがそわそわし始めた。  携帯やカメラを用意し、入念にチェックし始める。    まぁ……一応この大学で人気のあるやつらが出て来るわけだし、ある意味アイドルのイベント的な感じなのか?  キャーキャー言われていた立場の夏樹には、まったく理解できない。    そんなことより、雪夜は何してるのかな~?  雪夜を探してステージの周囲を見ていた時だった。 「みんな~!お待たせしました~!!」 「おおお!!!来たああああああああああ!!!!」 「待ってたよおおおおおお!!!!」  ステージ上に誰かが元気よく飛び出してきた途端、会場がざわついた。  ん?今の声って…… 「今日はいよいよ最終日だよぉ~!!最終選考に残った美男美女がいっぱい出てきます!みんな、誰に投票するかはもう決めてるかな?」 「決まってるよ~!!」 「きみしかいない!!」 「きみに100票入れとく!」 「あはは、ありがと~!!でも、出場者以外に入れるのはダメだよ~!私は今年も司会進行係をさせて貰います。ゆっきーです!」 「「ゆっきー!!!!」」  ゆっきーって……いやいやいや、嘘だろ!? 「おお?あのステージで司会してる子ってめちゃくちゃ可愛いな」 「あぁ……そりゃそうだろ。俺の恋人だからな」  ステージ上の司会者を見て素で呟いた吉田に、夏樹が半分放心状態で答えた。 「へぇ~……って、は!?お前何言って……え?浮気?」 「何でだよっ!よく見ろよ、あれは、雪夜だっ!」 「うっそ……もがっ!?」  驚いて大声を出そうとした吉田の口を慌てて押さえた。  だが、押さえる必要のないくらい会場は盛り上がっていた。   「マジかよ、雪ちゃんってあんなキャラだっけ?」 「いや……とりあえず俺の知ってる雪夜はあんなキャラじゃねぇよ」  あれが大学での素なのか、このイベント用のキャラ作りなのかわからないが、普段の雪夜からは全然想像できない姿にさすがに驚きを隠せなかった。  ステージ上にいるのは、ふわふわのセミロングにオレンジのグラデーションのミニワンピースを着ている、お目目ぱっちりの人形みたいに可愛い美少女だ。  どこからどう見ても女の子で雪夜とは別人みたいに見えるが、毎日見ている夏樹が見間違うはずがない。  立ち姿や仕草も女の子っぽくなってはいるが、ステージ上で歓声を浴びているのは、夏樹の恋人の雪夜だ。  雪夜がにこっと笑うと、あちこちから一斉にカメラのシャッター音がする。  くそっ!俺の雪夜を勝手に撮ってんじゃねぇよ!!  舌打ちしながら、夏樹もそっと携帯のカメラで雪夜を連写した―― ***

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