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夜明けの星 1-13(夏樹)

「ちょおおおっと待ったぁああああ!!!みんなゆっきー如きに騒ぎすぎよ!!今年のミスコンは私が頂くわよ!」  雪夜への歓声でもう誰が何を言っているのかわからない状態になってきた時、雪夜ことゆっきーの後ろからまた誰かが出て来た。  待て待て待てっ……いや、もう……うん……雪夜が出て来た時点で何となく予想はしてたけど……お前らあああああっ!!!先に教えておけよぉおおお!!! 「どうした?夏樹」 「いや……もう俺ダメかもしれん……腹筋が崩壊しそう……っ」  夏樹は両手で顔を覆って笑いを堪えるのに必死だった。  そんな夏樹とは裏腹に、会場は更に盛り上がっていた。 「「おおおお!!!さっきちゃーん!!」」 「はいはいはい、みんな落ち着いてぇ~!今年も私の美しさにひれ伏しなさい?ほらほら、よぉくご覧なさいな。ゆっきーみたいな色気のない小娘よりも私の方がキレイでしょ?」 「おれはさっきーに票入れるよおおお!!」 「さっきーに踏まれたあああい!!」 「私に踏まれたい子豚ちゃんはコンテストが終わったら勝手に地面に寝そべってなさい」 「「はあああああい!!」」  ノリノリじゃねぇかよ……佐々木……  雪夜の後から出て来たのは、黒髪のウィッグを結い上げてチャイナドレスを着ている東洋美女……に扮した佐々木だった。  佐々木も元々顔立ちがハッキリしていてわりとキレイな顔をしているのでメイクが映える。  身体付きも細身なので、意外とチャイナドレスがよく似合っていた。  大きな扇子で顔をちょっと隠しながら会場を見下ろす姿が何とも様になっている。 「あれだな、雪ちゃんは可愛い美少女系で、もう一人のさっきーちゃんはクール美女系だな。っていうか、もしかしてあのさっきーちゃんも男か?」 「だよ。さっきーちゃんも雪夜の男友達。まぁ、美女系っつーか、女王様系になってる気がするけどな……後もう一人いるはずだけど、あいつはさすがに……」  吉田の質問に答えていると、二人の後からちょっとやけくそ気味にもう一人。  完全にお笑い担当らしい、厚塗りメイクをされたガタイのごついメイドさんが出て来た。  おまえもかあああああああああっ!!! 「ぶはっ!!!」  笑いを堪えきれなくなった夏樹は、その場に崩れ落ちた。  ってか、相川……きっつぅ~……  雪夜や佐々木と違って相川は男らしい顔つきと筋肉質な体系だし、まぁ……女装したらこうなるよな。  会場も一気に笑いに包まれた。  が、意外にもこの相川の女装も人気があるらしい。 「はい、お待たせ~!みんなのアイドルあいちゃんですわよ~!さてと、本題に移るわよ~。今日はミス&ミスターコンテストの二次選考です。え~と……あれ、この台本違うやつだ。ちょっとさっきー見せて!?」  さっさと本題に戻そうとした相川だったが、台本を間違えたらしく焦って佐々木に助けを求めた。   「あいちゃん落ち着いて~!!」 「冗談は顔だけにして~!!」 「うっせぇですわよっ!!お黙りなさい馬鹿野郎どもがっ!!」  相川のキャラ設定がイマイチわからないが、とりあえず相川のドジを弄るのも恒例らしい。  相川の暴言にも会場は爆笑だった。  大盛り上がりの中、最終選考が始まった。  一応それなりに学内で人気のある人間が選ばれているので、誰かが出て来る度に応援の声が上がるが、司会担当の三人が出て来た時ほどの盛り上がりにはならなかった。 ***   「――それじゃあ、結果発表は学祭終了直前の4時!投票は今から30分間!投票箱はステージ横と後はパンフレットに書いてるから自分で探しなさい!時間がないから、みんな今すぐ投票するのよ!いいわね!?」 「「はーい!」」  佐々木が投票についての説明をすると、学生たちが口を揃えて返事をした。 「それじゃまた後でね~!」  雪夜が笑顔で手を振ってステージの奥に帰ろうとすると、静かになりかけていた会場がまたざわめく。 「ゆっきー、デートしよおおお!!」 「一緒に店回ってえええ!!」 「ごめぇん!私先約があるの!あ、あいちゃんは空いてるみたいだよ~?」  雪夜が相川を引っ張って前に押し出した。 「私はいくらでも奢られてやりますわよ!?」 「あいちゃんはごめんなさあああい!!」 「あいちゃんだと財布が持たないから無理ぃいいいい!!」 「失礼な!私そんなに食べませんわよ!!」 「去年めっちゃ食ってたじゃんか!!」 「あいちゃん両手に焼きそば持ってたし!!」 「そんな昔のことをいつまでもネチネチ言うような心の狭い男だから一年経っても彼女が出来ないんですわっ!」  相川が学生たちの相手をしている間に、雪夜と佐々木が奥に引っ込んだ。  二人が奥に行ったのを確認して、相川が適当に学生たちをあしらい盛り上げた状態で次の出番待ちのグループに繋げた。  喋るのはやっぱり相川が一番上手いな。  佐々木も雪夜も人前で喋るのは得意ではないので、だいぶ相川がフォローしていた。  ……っていうか、ホントなにあれ!?  雪夜、人前に出るの苦手なのに頑張ってたし、作り笑顔だけどめちゃくちゃ笑ってたし、可愛いし、なんなの!?  あれを俺には絶対に見せたくなかったとか、ひどくないか!? 「で、この後どうすんだ?結果発表までまた何か食いに行くか?」 「え?あぁ、そうだなぁ~……まだ時間あるし……ん?」  吉田に言われて時計を見ようとした時、ステージ横の方が何やらざわついた。  女の子の悲鳴や怒鳴り声のようなものも聞こえてきたので、吉田と顔を見合わせ、人混みに紛れながら様子を見に行ってみることにした。 ***

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