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夜明けの星 1-15(夏樹)

 相川と佐々木が男を押さえ付けると、テントの中や周囲から実行委員らしき学生や大学の関係者、警備員らが一斉に男に近寄ってきて、あっという間に男は取り押さえられた。 「さてと、俺も何か食おうかな~」  雪夜のことが少し心配だけど、とりあえずケガはないはずだし、後は佐々木たちに任せればいいか……  夏樹が吉田とその場を離れようとすると、佐々木からメールが入った。 『ちょっとテントの裏に来い!!』 『え?でも、雪夜にバレちゃうだろ』 『もうバレてるっつーの!いいから来い!』 『はい』  おかしい……なんでバレたんだ!?  俺バレるようなことしてないのに!? 「夏樹~、俺も一緒に行っていい?」 「いや、お前は別に来なくていいけど」 「ゆっきーちゃんに会いたいから一緒に行く」 「雪夜は俺のだからな!?」 「別にとらねぇよ。俺にはみっちゃんがいるし」  吉田とくだらない言い合いをしながらテント裏に向かった。  テント裏は、ステージの裏側と続いていて、ステージを使用する学生たちの待機場所にもなっているらしい。  ただ、今はさっきの騒ぎのせいでステージ進行が一時中断しているせいか、閑散としていた。  恐る恐るテント裏に入って行くと、ゆっきーとさっきーとあいちゃんが腕を組んで仁王立ちをして待っていた。    ヤバい……何これ、俺今からこいつらにシメられんのかな? 「夏樹さん!!」  小走りで近寄ってくる雪夜の顔が険しい。    あ~もぅ、せっかく可愛い恰好してんのに、そんな顔したら台無し。  っていうか、怒らせてんのは俺か。 「あ~えっと……あのね、雪夜ごめん!これは……」  来るなと言われたのに来てしまったことを怒っているのだと思い、どう謝ろうかと考えていると、雪夜がガバッと抱きついてきた。 「え……?雪夜どうしたの?」 「こっ……怖かったぁ~……っ」  雪夜が声を震わせながら呟いて夏樹の服をぎゅっと握りしめた。  一瞬状況が読めずに動揺して佐々木たちを見ると、佐々木と相川も若干不安気な顔をして俯いていた。  あぁそうか……    しまったという顔で吉田を見ると、吉田も同じように気まずそうな顔をして首をポリポリと掻いていた。  俺も吉田も、あまりに自分たちがああいう場面に慣れているせいで、つい忘れていた。  コレが普通の反応なんだ。  自分が狙われていたわけじゃなくても、刃物を振り回す男を目の前にすると、普通は怖い。  面白半分に見ていただけの野次馬たちと違って、こいつらは狙われていた女の子を庇っていたわけだし、しかも雪夜は緑川に襲われた時のトラウマがまだ残っているのに……  あ~もぅ……俺何やってんだっ! 「ごめんね、もっと早く助けに入れば良かったよね」 「っううん、誰もケガしなかったから……夏樹さんのおかげです。なんかね……あの人目が怖くてっ……なにを言ってるのかも……わかんなかったしっ……っ」 「うん、怖かったよね。よく頑張ったね」 「……はぃ……」  夏樹が頭を撫でると、雪夜の瞳からぽろっと涙が零れた。  さっきまでの険しい顔は、怒っていたわけじゃなくて泣くのを必死に堪えていたせいだったらしい。 「あ、ごめんなさい!」  いつものようにそのまま夏樹の胸に顔を埋めようとしていた雪夜が、慌てて離れた。 「ん?」 「お、俺、今お化粧してるから夏樹さんの服が汚れちゃう」 「あぁ、そんなの別に構わないよ。おいで」 「っ……ふぇっ……」  夏樹が抱き寄せると、雪夜は顔全体を押し付けないようにちょっと遠慮気味に額を胸に押し付けて泣き始めた。    はぁ~っもぅ、なにこの子!  こんな時にまで気を遣わなくてもいいのに……可愛すぎるっ!  雪夜はどんな格好してても可愛いなぁ~……これはこれでアリだな、うん。  それはそうと…… 「え~と、おまえらも来るか?」  夏樹は雪夜の背中を撫でながら、佐々木と相川にも声をかけた。  どうせ相川が佐々木のフォローをするだろうし、いらねぇと言われるだろうとは思ったものの、一応腕を広げて呼んでみる。 「……」  二人はチラッと目を交わすと、意外にも相川が率先して佐々木の手を引っ張ってこちらに歩いてきた。  あ、来るのね?え、二人して来る?んん?    泣いてはいなかったものの、さすがに二人も精神的に軽くショックを受けたようで、無言でちょっと不貞腐れたような顔をしたまま、夏樹と雪夜に抱きついてきた。 「お……っと?」  え、ちょっと待って、何この図……笑っちゃいけないんだけど、こんなん笑っちゃうだろっ!!  雪夜と佐々木だけなら傍から見れば美女をはべらせてるハーレム状態なんだけど、相川が入ると急に地獄絵図……  夏樹の胸元に雪夜、右側に佐々木、左側に相川が抱きついている。  雪夜は元々背が低いのでヒールを履いてもそんなに気にならないが、佐々木と相川はヒールを履くと夏樹とほぼ身長が同じくらいになる。  つまり、顔が近い。  左側を見ると笑ってしまいそうなので、左側は見ないように視線を逸らした。  女装男子たちに囲まれて固まっている夏樹を隣で見ていた吉田は、後ろを向いて肩を震わせていた。  さすがに声を出して笑うのは堪えているらしい。  おいこら、声出して笑ってもいいから、ちょっと助けろっ!! ***

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