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夜明けの星 1-16(夏樹)

「んん゛、あ~……おまえらもお疲れさん。なかなかいい動きだったぞ。よく頑張ったな」  二人とも珍しくしおらしくなっていたので、夏樹は必死に笑いを堪えて二人の頭をポンポンと撫でた。 「っ……急にあんなこと言われても困るんだよっ!!合図送ればわかるとか……ただでさえ、こっちはみんなパニくってたんだから、もっとわかりやすく言えよっ!」  佐々木が急に(せき)を切ったように喋り出した。 「っていうか、夏樹さん近くにいたならもっと早く来てよ!遅いんだよっ!」 「ちょ、あいちゃん顔近づけないでっ!あ~うん、ごめんな。まぁお前らなら上手く動いてくれると思ってたし……」  相川が顔をグイっと近づけてきたので思わず手で押し返した。  ごめん、アップは無理!! 「だいたい、雪夜が心配じゃなかったのかよ!?俺が呼ばなくても自分から様子見に来いよ!」 「いや、心配だったけど、お前に雪夜に見つかるなって言われてたから……」 「そりゃそう言ったけど、そこは臨機応変に対応しろよっ!!そんなこと言ってる場合じゃなかっただろっ!?」 「はい……すみません……」  佐々木に言われた通りに見つからない努力をしていただけなのに、怒られてしまった。 「っていうか、ボールで倒すって何あれ!?」 「だから、あいちゃん顔近いっ!!いやまぁ、別に倒すつもりはなかったんだけど……ボールを投げたのは、ちょうどバスケットボール持ってる子が近くにいたからだし……身体のどこかに当たれば気を逸らすくらいはできると思っただけで、さすがにあんなにきれいに頭に当たるとは思ってなかったぞ?」 「いや、嘘だね。あんたのことだから最初から頭狙ってただろ?」  佐々木がジト目で夏樹を見た。 「夏樹さんならやりかねない!!あんたいろいろとチートだし!!」  相川が変な納得の仕方をする。 「どういう意味だよっ!?っていうか、あいちゃん顔近づけないでっ!」    確かに最初から頭を狙ってはいたが、男が急に暴れる可能性もあったわけだし、狙ったからと言って当たるとは限らない。  だから、本当にあんなにきれいに当たるとは思っていなかったのだ。 「……ちょっと?なんで私が顔近づけちゃだめなのよ!」  先ほどから夏樹が顔を逸らしていることに気付いて、相川が急に『あいちゃんモード』になった。 「悪い、その顔のドアップは無理!!」 「夏樹さんったらぁ~、そんなに照れなくてもいいのにぃ」 「鏡を見てから出直して来てくれる!?」 「ちょっ、ひどぉ~い!乙女に対してそれはないんじゃないの!?」 「そんなゴツイ乙女がいるかよっ!……ぶはっ!」 「ここにいますわよっ!!って、何笑ってるんですの!?」  思わず左側を向いてしまい、相川の顔をまともに見て吹き出してしまった。  くそっ、堪えてたのに! 「あ~もう、お前のキャラは一体どうなってんだよっ!」 「キャ……ラ?」  相川が、はて?と首を傾げる。 「なんのこと?みたいな顔すんなっ!」 「みんなのアイドルあいちゃんですわよ!?」 「とりあえず、あいちゃんは全国のアイドルに謝ってっ!?」 「ごめんなさいっ!?」 「よしっ!」 「で、なんであんたは相川と話しながらこっち見てんだよ」  佐々木がちょっと不機嫌そうに顔を顰めた。 「そんなのあいちゃんを直視したくねぇからに決まってんだろうが。あいちゃん見るよりはお前の顔見てる方がマシ」 「嬉しくねぇわっ!俺じゃなくて雪夜の顔見ろよ!」 「雪夜は今泣いてるから顔見せてくれないんだもん」 「だもん、じゃねぇっつーの!」 「こらこら、さっきーそんなに怒るなって。せっかくの美人が台無しだぞ~?っていうか、ホント美人だな、お前」 「私が美人なのは当然でしょ!?元がいいのよ元が!そこらの女と一緒にしないでくれる?」 「まぁ、雪夜には負けるけどな。そういや、何でお前女王様キャラなの?」 「知らないわよっ!これは先輩たちが――……」  だいぶテンポよくしゃべるようになったものの二人ともまだ声に勢いがない。  相川も佐々木も素直に怖かったと言えばいいのに…… 「ふ……ふふっ……あははっ、もうなんかキャラが大渋滞してるよ~」  とりとめのない会話を止めたのは、雪夜だった。  夏樹に抱きついて三人の会話を聞いていた雪夜が笑ったことで、佐々木と相川も顔を見合わせて気が抜けたように笑った。  結局、こいつらにとっても一番の癒しは雪夜の笑顔ってことか――……  それにしても、揃って俺にもたれてくるなよ!重いわ!! ***

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