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夜明けの星 1-17(夏樹)
「ほんとだな、何言ってんだろな俺たち」
佐々木が雪夜の頭を撫でながら苦笑した。
「あ~何かいっぱい喋ったら腹減ったな~」
「ホントだ!俺もお腹空いたぁ~!」
相川と雪夜が揃って空腹を訴える。
「よし、何か食いに行くか~!」
「いいね~」
「おいこら、お前たち!?いいね~じゃねぇよ!!その前に何か俺に言うことねぇのかよ!?」
学生三人で爽やかに青春しているところに夏樹が割り込んだ。
いや、割り込むだろコレは!!
今さっきまで三人の圧に耐えながら慰めていたのは俺!
もちろん、雪夜はいいけどね!?
でも、後の二人は、何か!一言!あっていいと思います!!
「え?夏樹さんも食うだろ?」
佐々木が当然のような顔で聞いてくる。
「へ?」
「何食いたい?俺ら買ってくるけど?」
「あ、え?えっと……」
何が食いたいって……え、いや、俺への一言がそれ?
予想外の言葉に夏樹が困惑していると、
「夏樹さん、あのね、豚汁とカレーがおススメなんですよ!毎年美味しいって人気があるんです!一緒に食べませんか?」
雪夜が嬉しそうに笑った。
その笑顔につられて、思わず頬が緩む。
「そうなんだ?じゃあ、食べてみようかな」
「はい!」
「それじゃあ、雪夜と夏樹さんは豚汁とカレーな」
雪夜と夏樹の会話を聞いていた佐々木が、さっさと歩き出す。
「あ、俺は一緒に行くよ?」
「ダメダメ、雪ちゃんはまずその顔をどうにかしなきゃ。泣いてたから化粧が落ちてるぞ」
「あ~そうだった!!ヤバい、俺今スゴイ顔してるんじゃないの!?わぁああ!!夏樹さん見ちゃだめぇえええ!!」
夏樹は、両手で顔を隠して目を擦ろうとした雪夜の手をやんわりと掴んだ。
「擦っちゃダメだよ雪夜!強く擦らなければそんなに崩れないから大丈夫。それに雪夜はどんな顔してても可愛いよ」
「可愛くないですよぉおお!!夏樹さん冗談を真顔で言うのやめてくださいいいいい!!」
いや、冗談じゃないし。そもそも、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってる雪夜の顔なんて見慣れてるし。
「はいそこ、イチャイチャするのは俺らがいなくなってからにしてくださーい」
「んじゃ、行って来るね。先輩に言っておくから雪ちゃんは化粧直して貰って、ここで夏樹さんと待ってて」
「あ、えっと、あなたも何か食べたいものありますか?」
佐々木が足を止めて、壁にもたれていた吉田に話しかけた。
あ、そういや吉田もいたんだっけ。
あまりにも大人しいから忘れてたわ。
「あぁ、俺も一緒に行っていいかな?さっきちょっと食ったけど、まだ回ってない店あるし」
「じゃあ、一緒に行きますか!」
「おう!」
「吉田~!食い過ぎんなよ」
「わかってるって」
吉田は夏樹にひらひらと手を振りながら、相川たちと仲良く自己紹介をしつつ意気揚々と模擬店に出向いて行った。
あれ?何か結局食い物でうやむやにされた!?
……まぁいいか。
***
「あ~!ゆっきーこんなとこにいた!あ、その顔なに?泣いた?ちょっとメイク直さなきゃ!!こっち来なさい!」
佐々木たちが買いに出て、雪夜と二人きりになったと思った途端、数人の女の子がやってきてテントの中に雪夜を引きずって行った。
「全くもう!!メイク崩れたらすぐに来なさいって言ったでしょ!?」
「ごめんなさぁああい!!……でも先輩、俺カレーと豚汁食べたいんですけど……」
「まだ食べてなかったの!?じゃあ、なるべく口元以外汚さないように努力してね。食べ終わったらまたメイク直すからね!」
「はぁい……」
「それから、結果発表の時もゆっきーは思いっきり可愛くね!」
「ぅぅ……あれ以上は無理ですよぉおお!!」
「大丈夫よ!ゆっきーもさっきーも出場者の女の子よりも美人なんだからっ!頑張ったらちゃんとご褒美あげるからね!」
「はい、頑張る!!」
「よぉ~し、良い子だねぇ~!」
女の子たちの勢いに押されて、雪夜が連れて行かれるのを茫然と見送っていた夏樹は、テントの中から聞こえる会話に苦笑した。
恐らく、メイクしているのはゼミの先輩たちなのだろう。
あの勢いには勝てないよなぁ……
っていうか、ご褒美ってなんだ?そのために頑張ってるみたいだけど、雪夜が女装したりあんなキャラ作ったりしてまでも欲しいご褒美……気になる……
***
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