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夜明けの星 1-18(夏樹)
「お、お待たせしました~……」
先輩たちに連れて行かれてメイクを直してもらった雪夜が、フラフラになりながら戻って来た。
「大丈夫?」
「大丈夫です!ちょっと、あの先輩たち苦手で……悪い人たちじゃないんですけど、勢いが凄くて……」
雪夜は女の子が苦手だ。
大学に入ってからは、佐々木たちのおかげで何とか日常会話は出来るようになったらしいが……まぁ、さっきの勢いで来られたら雪夜じゃなくても引くよな。
「雪夜、ちゃんと顔見せて?」
「え?」
「俺ここに来てから雪夜の泣き顔しか見てないから」
「あ……えっと、あの……でも俺、今変な顔してるから……あ、変なのは顔だけじゃないけど……って、そうだ!何で夏樹さん学祭に来てるんですか!?」
おっとぉ……そこに戻るか。
「あ~……来るなって言われたのに勝手に来ちゃってごめんね。でも、雪夜が二年連続で何をするのか話してくれないから気になって……」
「こんな格好しますなんて言えるわけないじゃないですかぁあああ~!」
雪夜がスカートの裾をつまんでピラピラさせながら顔を顰めた。
「似合ってるよ?」
「似合っ……え……夏樹さんこういうのが好きなんですか?」
少し間が空いて、雪夜がちょっとむくれながら上目遣いで見上げてきた。
「こういうのっていうか、雪夜が着てるから可愛いなと思うだけで、他の子が着てても別に何とも思わないよ」
「……へぇ~……そうですか……」
雪夜が照れ隠しにそっけなく答えて俯いた。
「ただ……他のやつらの前でこういう恰好されるのはちょっとね……できれば俺だけに見せて欲しいかな」
スカート短すぎだし!!それステージの前の方にいるやつらに見えちゃうでしょ!!なにがとは言わないけど!!
「だから……ね、雪夜」
赤くなった雪夜の耳元に軽くキスをして囁く。
「ん……な、なんですか?」
「写真撮らせて?」
「……へ?」
雪夜がポカンとした顔で夏樹を見た。
「せっかくそんな可愛い恰好してるんだし、記念に」
「き、記念って、何の!?」
「ん~?ゆっきーと初めて会った記念?」
「夏樹さん……実は面白がってるでしょ!?」
「うん、ちょっとだけね」
「むぅ~~!」
「はい、笑って笑って~?」
頬を膨らませて夏樹の腕をペチペチ叩いてくる雪夜に携帯を向け、笑ってと言いながらそのまま数枚撮る。
うん、むくれてる顔も可愛い!
「夏樹さんじゃあるまいし、そんな急に笑えませんよ!」
ん?それは一体どういう意味かな?
急には笑えない……ねぇ……
「え~?俺も誰にでもは笑わないよ? 」
あ、ヤバい。口に出す方間違えた。
思わず脳内が駄々洩れに……
「何でそうなるんですか!?別にいいですけど!」
「ん……?んふっ……ははっ、キスはしていいんだ?」
勢いよく答えた雪夜に思わず笑ってしまった。
今のは多分無意識だな……
「え?あっ!あの……やっぱ今のはナシ――」
「却下です」
雪夜の腰に手を回して抱き寄せると、顎に指をかけて軽く持ち上げた。
元々大きい瞳がメイク効果で更に大きく見える。
チークが必要ないくらい頬を染めながら、ピンク色のリップが塗られた口唇を薄く開いた雪夜は、一瞬夏樹の瞳を覗き込むと、瞳を泳がせながらゆっくりと長い睫毛を伏せた。
それは夏樹の好きな雪夜の仕草の一つだが、このメイクでその仕草をすると完全に女の子に見えて少し戸惑う……
え、待って!?俺の恋人、可愛すぎないか!?
いや、可愛いのは知ってるけど!ええ、存じておりますとも!!
ダメだこれ、早く籍入れよう!!
あらぬ方向に思考を飛ばしながら、そっと頬を撫でて口唇を重ねた。
「んっ……ぁ……っ?」
口唇に触れるだけの軽いキスをして離れると、雪夜が少し物足りなさそうに口唇をなぞって夏樹をチラッと見上げた。
あ~もう、雪夜っ!だから、そういうとこ!!こんなところで煽ってこないで!?
「んん゛……リップが取れると先輩たちに怒られちゃいそうだから、今はちょっとだけね。帰ったらいっぱいしようか」
煩悩と戦いながら咳払いをして、雪夜に笑いかける。
「あ、そ、そうですね!!……え?いっぱい?」
「うん、いっぱい。……嫌?」
「嫌……じゃないです……」
「良かった」
まぁ、キスだけでは終わらないけどね。
煽った責任は取ってもらいます!
「って、夏樹さん、何撮ってるんですか!?」
「え?今の顔がエロ可愛かったから」
「うそっ!?ちょ、やだぁ消してぇええええ!!!――……」
***
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