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夜明けの星 1-20(夏樹)
「斎 さんの方は何かわかりましたか?」
「ん~、白川 の上のやつが気になるんですよね。かなりきな臭い……白川は上のやつの名前は知らないんですよね?」
斎の足元で正座をしていた白川が、名前を呼ばれて背筋をピンと伸ばした。
「はい!いつもボスって呼んでるんで名前は知りません!それに直接会ったことはなくて、いつもボスの側近って人が伝言してくる……きます!」
随分白川の話し方が丁寧になっている。
この短時間に一体何があったのかわからないが、大方、斎の教育的指導を受けたのだろう。
「ボスねぇ……」
「白川に白季 組組長の息子だと名乗れと言ってきたのもそいつらしいですよ?ね?」
「あ、はいっす!白川と白季が似てるからちょうどいいって……白季組の組長には息子がいるけど、病弱であんまり表に出てこないらしくて、顔を知ってるやつは少ないだろうからバレることはないって言われて……」
「ほぅ?」
まぁ、確かにな。表にはあんまり出ないけど……病弱ってことになってんのか。
どこ情報だよそれ……
「……で、何のために息子のフリをしたんだ?」
「俺も……あ、自分もよくわかりません!とりあえずしばらく白季組の組長の息子のフリをしてあっちこっちで言いふらせって言われて……」
「そんなあやふやな命令よく聞いたな」
「はい!名前使って好き放題していいって言われて、白季組の名前出したら本当に結構融通が利くっていうか、いろいろ好き放題できたんで……ちょっと調子に乗りましたっす!」
「好き放題、ね……」
夏樹が大きなため息を吐きつつ白川を睨むと、白川の顔色が真っ青になった。
「ヒッ!!すすすすみませんっしたあああああっっっ!!!」
「……それで、そっちが調べてることって何ですか?俺にも関係してるっていうのはこのことでしょ?」
土下座をしている白川を無視して、斎に話しかける。
「まぁ、そういうことです。最近いろんな組の名前をやたらと振りかざして好き放題してるガキ共がいるっていう話を耳にしましてね。ナツのとこだけじゃなくて詩織さんのとこもやられてるんですよ。関係者でもないのに勝手に組の名前を出すガキはたまにいるけど、今回はそれが同時期であまりに多いので何か嫌な予感がして……複数依頼も来てるので、どこの差し金か調べてみようかと思って動き出したところだったんですよ」
虎の威を借る狐はよくいるが、今回のはどうやら組織的なものらしい。
斎たちに任せてもいいが、うちも関わっている以上は知らないふりはできない。
あ~頭痛い……早く雪夜の顔が見たい……
「なるほど……ん~~……よし、じゃあとりあえずこいつらの上を引っ張り出しますか!」
夏樹は若干痛み始めた頭をガシガシとかき乱して、前髪を両手でかきあげた。
「そうですね。いつがいいですか?」
「できるだけ早い方がいいですね。数日中にケリをつけたいです。長引かせたくない」
「こっちでやってもいいですよ?ナツは雪ちゃんについていてあげなさい」
「いや……俺もそうしたいですけど、こっちを片付けたら顔出しに行くって瀬蔵 のおっさんに言っちゃったんで、早く片付けないと明日から怒涛の催促 が来ちゃうんですよ」
「はは、それは自業自得ですね。普段から顔出してればそんなに酷くならないのに」
「わかってはいるんですけど、あのおっさんの相手するの面倒くさいんですよ。一回捕まるとなかなか離して貰えないし、何かと仕事押し付けてくるし……」
情けない声を出す夏樹を、斎が爽やかに笑い飛ばした。
「お~い、ユウたちと連絡ついたぞ。詩織 さんの方から人出してもらって交代するってよ」
暇を持て余していた隆 が、斎と夏樹の話を聞きながら裕也 に連絡を取ってくれたらしい。
「え、詩織さんの方からですか?何ならうちから出しますけど……」
「いや、いいよ。ナツはあんまり表に出ない方がいいだろ。まだ相手も目的もわかってねぇんだから、下手に動かない方がいい」
「わかりました。じゃあ、お願いします」
夏樹は隆に頭を下げつつ、ため息を吐いた。
詩織さんの手を借りたとあっては、また詩織さんのところにも顔を出しに行かなければいけないので、若干気が重い。
詩織さんのことは嫌いじゃないけど、ちょっと苦手なんだよな――……
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