199 / 715

夜明けの星 1-21(雪夜)

「え、夏樹さんまだ帰ってこれないんですか?」  カラオケに来て3時間程経過した頃、ようやく夏樹から電話がかかってきた。 「うん、ごめんね、まだちょっとかかりそうなんだ。だからしばらくは佐々木くんのところに泊まってくれるかな?」 「え、あのっ……」 「ん?」 「いえ……はい」 「……ごめんね、なるべく早く片付けて迎えに行くから!……あ、そこに吉田いるよね?ちょっと吉田に代わってくれる?」 「はい……」  聞きたいことはたくさんあったが、夏樹の声の様子から聞ける雰囲気ではなかったので言葉を飲み込んで近くにいた吉田に携帯を渡した。  少し前に、裕也が何人かちょっと怖そうな見た目の人達を引き連れて戻ってきた。  話してみるとみんな見た目よりも優しくて礼儀正しいが、時々集まって裕也や吉田と話し込んでいる時の目が怖い。  何が起きているのか全然わからないけれど、裕也たちの動きを見る限りどうやら雪夜も何か関係しているようだ。  夏樹さんは一体何してるんだろう……後で聞いて欲しい話があるって言ってたけど、どうして夏樹さんがここに来てくれないの?傍にいてくれないの?いつだって傍にいるって言ったのに……っ!!  雪夜は壁にもたれながら無意識に夏樹から貰ったリングを指で弄って不安を紛らわせていた。 「……ちゃん、雪ちゃん、大丈夫?」 「え……あ、はい!大丈夫です!」  気がつくと、目の前に吉田が立っていた。 「今日は佐々木君のところに泊まるんだよね?帰る時は俺が送って行くからね」 「あの……何があったんですか?」 「ん?ん~……夏樹は何て言ってた?」  吉田なら教えてくれるかもしれないと思って聞いてみたのだが、吉田は首筋を掻きながら困った顔をした。 「夏樹さんは何も……ちょっと片付けることがあるからって……」 「あ~そうなんだ……あいつが話してないことを俺の口から勝手に話すことはできないんだよな~。でも何も聞かされてないと不安になるよな?」 「夏樹さんのことは信じてるけど、心配なんです……」  何も知らないまま、ただ待っているのは嫌だ……っ! 「そうだよなぁ……う~ん、まぁ簡単に言うと、さっき雪ちゃんたちに絡んできたやつらのことでいろいろとややこしくなってるみたいでさ。ああいうやつらが他にもいて、そいつらも雪ちゃんを探してるっぽいんだよね」 「俺を?」 「正確には、学祭のミスコン優勝者。でも、ホームページに載ってる方じゃなくて、探してるのは“オレンジのワンピースを着てた美女”なんだってさ」 「それって……俺ですね……」  学祭のミスコン優勝者の女の子が着ていたのは、白いドレスだ。  司会進行役の俺たちは三日間、絶対に出場者と被らない恰好ということで先輩たちがいろいろと考えてあの衣装を選んだらしいので、間違いようがない。 「そう。でも、向こうは目的の人物をまだ特定できてないみたいでね、総当たり的にまた他の子たちにも絡んでくるかもしれない。で、一応全員をガードしてるってわけ」 「でも……みんなをずっとガードするのは無理ですよね?」 「うん、だから、夏樹たちが早々に片付けようと今奮闘してる感じかな」 「そう……ですか……」  それって……いっそのこと俺が“オレンジのワンピースを着ていたゆっきー”だってバラしたら、少なくとも他のみんなには迷惑かからないんじゃないのかな……?  と言っても、どこにバラせばいいのかわからないけど……ウェブとか? 「雪ちゃん?間違っても、“オレンジのワンピースを着てた美女”が自分だなんてバラしちゃダメだよ?」 「えっ!?」  吉田に心の中を読まれたのかと思って一瞬焦る。 「夏樹にね、このことを雪ちゃんが知ったらそう言い出すだろうから絶対に言うなって言われてたんだよね。あいつの言ってた通りだね」    吉田が、焦った雪夜を見て苦笑した。  夏樹さんは俺の思考なんてお見通しということか……  というか、吉田さん「夏樹が話していないことを勝手に話すことはできない」とか言いつつ、かなりぶっちゃけてる気がするんだけど…いいのかな?   「あ、俺から聞いたことは内緒ね。あのね、向こうが持ってる情報が少ないのはこっちにとっては有利なんだよ。それを利用していろいろと作戦立てられるからね。心配しなくて大丈夫だから、雪ちゃんはあいつを信じて待っててやって?だいたい、雪ちゃんにべた惚れの夏樹が何日も雪ちゃんに会わないなんて耐えられるはずないから、さっさと終わらせて必ず雪ちゃんを迎えに来るよ。ね?」 「……はい」  夏樹さんよりもきっと俺の方が耐えられないですよ…… ***

ともだちにシェアしよう!