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夜明けの星 1-22(雪夜)

「雪夜、もう帰るか?」  カラオケ部屋に戻ると、佐々木と相川に呼ばれた。 「……うん……あ、いや、大丈夫!みんなまだここにいるんでしょ?」 「いや、みんなももう今日は帰ろうかって話になっててさ。やっぱりその……居心地が悪いというか……」  相川がチラッと廊下にいる吉田たちを見た。  気にせずに好きなだけ遊んでいいとは言われたものの、明らかにヤバそうな人たちを待たせておいて気にするなという方が無理な話だ。  他の客の邪魔にならないように向かい側の部屋で待機してくれているようだが、交代で数人は廊下をウロウロしている。  他のメンバーも、もうすっかり酒は抜けたようで、早く帰りたそうに鞄を持ってソワソワしている。 「そっか、そうだよね。じゃあ……俺も帰ろうかな!ちょっと吉田さんたちに伝えてくるね」  雪夜がそう言うと、みんながあからさまにほっとした顔をした。  みんな自分から言うのは怖いので、吉田たちと知り合いらしい雪夜たちが言ってくれるのを待っていたらしい。    なんかごめんなさい……いや、俺のせいじゃないから謝る必要はないんだけどね?  でもせっかくの打ち上げがこんなことになってしまって、何となく申し訳ない気持ちになった――…… *** 「――それじゃ、何かあったらまたいつでも連絡してきてね」 「はい、ありがとうございました!」  吉田は佐々木の家まで雪夜たちを送ると、連絡先を交換して帰って行った。 「お邪魔しま~す」 「はいよ~……って、どうしてお前がいるんだ?」 「いて゛っ!」  雪夜の後ろからついて入ってこようとした相川の顔面を佐々木が掴んだ。 「ちょ、(あきら)!痛いっ!」 「お前は自分の家に帰れっ!」 「え~いいじゃんかぁ~!二人だけで楽しもうとかズルい!!」 「別に何もしねぇよ!今日はもう寝るだけだっ!」 「俺も一緒に寝たい~!」 「うちのベッドはキングサイズじゃねぇんだよっ!三人も寝れるか!」 「俺は床でいいよ?」 「床って……夏じゃねぇんだし、風邪引いてもしらねぇぞ!?」 「大丈夫だって、俺そんなに風邪引かねぇし」  佐々木が大袈裟にため息を吐いて、どうしよう?という顔で雪夜を見た。 「あ、俺は全然いいよ?っていうか、二人の邪魔しちゃってごめんね……」  佐々木と相川は幼馴染同士で今は恋人同士でもある。  この場合、どう考えても邪魔なのは雪夜だ。 「雪夜は邪魔じゃないよ。邪魔なのはこいつ。っつーか、相川の家すぐそこなんだから、また明日来ればいいだけじゃねぇか!」  佐々木と相川の家は徒歩5分程の距離だ。めちゃくちゃ近い。  佐々木は怒っているわけでも、本当に邪魔だと思っているわけでもなくて、単に相川を床で寝かせたくないだけなのだ。  相川も長い付き合いなので恐らくそれはわかっている。わかってはいるけれど、聞く気はないらしい。 「まぁまぁ、いいじゃんか。いつものことだし?はいはい、それじゃ俺風呂の掃除してくるね~」  相川はしょっちゅう佐々木の家に入り浸っているので、ほとんど我が家のようなものだ。  雪夜と佐々木を置いてさっさと風呂の用意をしに行ってしまった。 「ったく……ごめんな、雪夜。本当にお前は邪魔じゃねぇから、変な気使わなくていいからな!?」 「え?うん、ありがとう。大丈夫だよ、いつものことだし。二人のやり取り見てるの好きだから」 「そっか。さてと、何か口直しに飲むか。雪夜ジュース何がいい?」 「え~とね、オレンジジュース!」 「そういや、学祭の時に買っておいたお菓子がまだあるぞ?」 「あ、食べたい!」  学祭で女装をするにあたって、ムダ毛の処理をするように先輩から言われていた。  雪夜はもともと男にしてはムダ毛が少ない方だが、それでもつるつるになっていれば夏樹に気付かれてしまう。  そこで、学祭期間中はいろいろと準備が忙しいからと佐々木の家に泊まり込んでいたのだ。  まぁ、結局夏樹さんが学祭に来ちゃったから女装もムダ毛を処理したのもバレたわけだけど……  学祭の後、佐々木の家に泊まっていた理由を知った夏樹が真顔で「言ってくれればムダ毛の処理手伝ったのに」と言ったのを見て、やはり佐々木の家に泊まり込んでいて良かったと思った。  だって夏樹さん目がマジだった……  でも俺、夏樹さんにムダ毛の処理を手伝ってもらうなんて、ずぇええええっっっったいに無理っっ!!  それにどう考えても夏樹さんがムダ毛の処理だけで終わるわけがないっっ!!  なにより、俺が恥ずか死するっっ!!! ***

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