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夜明けの星 1-24(夏樹)
夏樹は大袈裟にため息を吐きながら、目の前の大きな門柱についているインターホンを鳴らした。
「ナツ、そんなに嫌がるもんじゃねぇよ」
隣にいた斎 が膨れっ面の夏樹の顔を見て軽く吹き出した。
今日の斎はオフモードだ。
「はい、どちらさん?」
インターホンから、まだ若そうな男の声が聞こえて来た。
「夏樹です」
「あ~?なつきぃ~?どちらのなつきさん?」
「さっさと開けろ」
「あんだとこらぁ!?……っえ?なんすか……あ、いや、なつきとかなんとか……え?……ええええ!?……う゛っ!」
「夏樹さん、すみません!藤田です!今すぐ開けますっっ!!」
インターホンの向こうで揉める声がして、門の向こうが急に慌ただしくなった。
「新人か?」
「そうですね、藤田が教育係をしてるみたいなので今の声はたぶん……3か月前に入ったとか言うやつだと思います」
「お前の顔知らねぇのか?」
「俺ここに来るの半年ぶりくらいですから」
「そんなに顔出してなかったのか」
「雪夜のことでいろいろあったんで……こっちに来る暇がなかったんですよ」
「こら、雪ちゃんを言い訳に使うんじゃねぇよ」
「ぅ……すみません……そうですね、ちょっと幸せボケして現実から目を逸らしていた部分はあります」
「まぁ、お前の気持ちもわからんでもねぇけど……ずっと目を逸らしていられるもんでもねぇだろ?」
夏樹が斎とのんびり話していると、門がゆっくりと開いた。
「「おけぇりなせぇやしっっ!!」」
門をくぐると玄関まで続く石畳の両側にずらりと黒いスーツを着た男たちが並んで頭を下げていた。
夏樹と斎は特に気にすることなくそのど真ん中を歩いて玄関に向かう。
玄関の前で斎より少し年上くらいの、どこぞの会社の秘書のような風貌の男がにっこり笑って待っていた。
「お帰りなさい、親父が首を長くしてお待ちしてますよ」
「神川 さん、お久しぶりです。ところで、さっきインターホンに出たのって三か月前に入ったとか言う木村でしょう?まだちょっと言葉遣いがなってないですよ」
「すみません、躾けが行き届いてなくて……木村ぁあああっ!!ちょっと来い!」
夏樹と斎は、神川の怒鳴り声を背中に聞きながら玄関に入った。
***
「こちらです」
「ノブさん、ありがとうございます」
夏樹はスキンヘッドのいかつい風貌のノブに礼を言うと、案内された部屋の襖をパンッと無造作に開けた。
30畳の和室の奥、白い鷹の絵が描かれた掛け軸がかかった立派な床の間の前に、不機嫌そうな顔をしたこの家の主、白季瀬蔵 が腕を組み胡坐をかいて座っていた。
夏樹と斎は黙って部屋に入りその男の前に座った。
「……」
「……」
たっぷり10分程、睨み合う。
「失礼しますっ!あーあーもう!またお二人して睨み合いですか?」
静寂を破ったのは、先ほどの神川だった。
お茶を持ってきた神川が、両者の間に入って説教を始めた。
「いい加減にしてください!いつまでそうやって睨み合ってるつもりですか!ほら、夏樹さんも話があるから来たんでしょう?黙っていちゃわかりませんよ!斎さんも、面白がってないでちゃんとフォローしてくださいよ!」
「え~俺まで怒られた」
「当たり前です!斎さんがいるからと思ってお任せしてたのに、なんで一緒に黙ってるんですか!?」
「いや、何分間黙ってるつもりなのか気になっちゃって。ホント二人とも頑固なところがそっくりだな!」
斎が面白そうに笑った。
斎と神川のやり取りを見ていた瀬蔵が、苦々し気にため息を吐いた。
「おらぁ頑固じゃねぇよ。こいつが頑固なだけだ!」
瀬蔵が腕を組んだままクイッと顎で夏樹を差した。
「心外ですね、俺は頑固じゃないですよ。瀬蔵のおっさんが黙ってるから俺も黙ってただけです」
「おめぇから話せよ!用事があるから来たんだろうが!」
「まずはおっさんの方から話すべきでしょう!?斎さんは客人ですよ!?」
「おめぇが連れて来たんだから、おめぇがちゃんともてなせよ!」
「俺も客人なんでもてなしてもらう側です」
「おめぇは客人じゃねぇだろっ!」
「あ~もう、おっさんはどうでもいいんですよ。それより愛ちゃんはいないんですか?」
「ああ?どうでもいいって何だよっ!?愛ちゃんなら……」
その時、廊下をどたどたと走って来る音が聞こえて夏樹たちがみんな身構えた。
***
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