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夜明けの星 1-27(夏樹)

――じゃあ、結局ここらの組の名前を若い奴らに使わせてたのは、地方からこっちに勢力を伸ばそうとしたやつの仕業ってことかい」 「簡単に言えばそういう事ですね。まぁ、何ともお粗末な計画でしたが」  斎が軽く肩を竦めた。 「そこは確か……2年前に多野山の親分が亡くなった後、だいぶ組が縮小されたんじゃなかったかい?」 「そうですよ。代替わりした途端、大部分がこっちに流れてきましたからね。跡を継いだのは多野山の息子なんですが、これがまた……今回のことでもわかるように残念なお坊ちゃんでね。浅知恵でこっちに手を出しに来たみたいです」 「おやまぁ……多野山の親分は素晴らしい人だったけれど、息子はどうしようもないバカだったんだねぇ……」  愛華が頬に手を当てて、ため息を吐いた。 ***  白川が白季の名を騙った件については、多野山の浅知恵による杜撰な計画の一つだったわけだが、夏樹にとってはそんなことよりも『ミスコンで優勝した美女』を探しているやつがいるということの方が重大だった。  そのため、組の名を騙らせているやつについての調査は斎たちに任せて、夏樹は『ミスコンで優勝した美女』を探しているやつについてを別方向から調べていた。  ミスコンの件について、夏樹には少し心当たりがあった。  実は夏樹はあの日、あの会場で多野山を目にしていた。  多野山の親父と白季のおっさんが顔見知りだったので、夏樹も息子と一度だけ顔を合わせたことがあったのだ。(最も、向こうは夏樹の顔など覚えてはいなかったが……)  ミスコンの会場に場違いな多野山がいたことがずっと引っかかっていたので、白川たちが『ミスコンで優勝した美女』を探せと言われたと聞いて、もしかしてと思ったのだ。  斎の方も白川の線から多野山が怪しいとあたりをつけたと連絡があったので、合流して多野山の組事務所に乗り込んで話を聞いたところ、結局どちらも多野山本人の仕業だった。    斎さんたちの調べが終わった後、ミスコン優勝者を探していた理由を問いただすと、どうやら多野山は完全にゆっきーを女だと思っていたらしく、一目惚れしたので自分の女にしたいと思い、「見つけたら拉致って無理やり手籠めにするつもりだった」とのたもうたので、軽く半殺しにしてついでに組をぶっ潰しておいた。   ***  愛華への説明が終わってみんなでお茶を飲んでいると、またどたどたと廊下を走って来る足音がして一斉に身構えた。 「ナ~~ツ~~!!」  襖を両手で左右に勢いよく開けて、両手を広げたまま満面の笑みで男が入って来た。 「ちょっ……待っ……ああぁ、す、すみませんっ……龍ノ瀬(たつのせ)組の、く、組長が……っ……お、お着きですっ……」  男の後ろから、息も絶え絶えにノブが追いかけてきて廊下にへたり込んだ。 「詩織さん、ノブさんが息切れしてるじゃないですか。他人の家に来た時くらい大人しく案内されてくださいよっ!」 「え~!?嫌だよ。だって龍ノ瀬組(うち)でこんなことしたら若頭に怒られちゃうし!」 「他人の家でやる方がダメでしょ!?」 「ここは実家みたいなもんだからいいんだよ!それよりも……ナツぅ~~~!!元気だった~!?大きくなったねぇ~!」  龍ノ瀬組組長の龍ノ瀬詩織(たつのせしおり)がガバッと抱きついてきて、頬をスリスリと擦りつけてきた。 「おわっ!?……あ~はいはい、元気ですよ。詩織さんも相変わらず年齢不詳ですね」  愛華と同じで、詩織もお気に入りの相手に対しては男女問わずハグをするのが好きだ。  拒否したところでこの二人に力で勝てるわけはないので、大人しくハグされるに限る。  詩織は変に拒否らない限りは愛華のように骨を折られるほど力を入れられることはないのでまだマシだ。 「俺の年齢~?瀬蔵と同い年だってば~。あ、愛ちゃん久しぶり~!いつも美人さんだねぇ、その着物もよく似合ってるよ」  詩織は夏樹を抱きしめたまま愛華に投げキッスを送った。   「あら、ありがと!詩織も相変わらずだねぇ」 「今回の報告はもう聞いた?」 「あぁ、今さっき斎から聞いたよ」 「そかそか。とりあえずこっちで片づけておいたからね~」 「詩織?なんで白季組(うち)を外したんだい?ひどいじゃないか!私も久々に暴れたかったのに!!」 「ん~、愛ちゃんが出る程じゃなかったし、愛ちゃんは問答無用で組壊滅させちゃうでしょ?今回のは複数の組織が迷惑してたから一応いろいろと確認しなきゃいけなくて……」 「ずるいっ!!」 「まぁでも、かわりにナツが壊滅させてくれちゃったんだけどね」  詩織がジト目でこちらを見てきたので、夏樹はスッと目を逸らした。 「お、俺はちゃんと斎さんたちの調べが終わってからにしましたよ!?」 「ナツ~?多野山だけならまだしも、組を潰しちゃったから後始末が大変だったんだからね!?全く、そんなところまで似なくていいのに、親子揃って豪快なんだから!」 「すみません……」 「へぇ~?ナツが組を……?」  愛華がキュッと眉根を寄せて夏樹を見てきたので、愛華からも目を逸らしてちょっと不貞腐れた顔をした。  愛華の言いたいことはわかっている。  愛華は普段から夏樹が一般人として普通に暮らせるように、こちらの世界からなるべく夏樹を遠ざけようとしてくれている。(まぁ、愛華を止められるのが夏樹だけなので、なんだかんだで瀬蔵と神川に引っ張り出されるのだが……)  だから、斎たちを手伝って調査をするまではいいとしても、直接的に夏樹がこの件に関わったことを暗に咎めているのだ。 「今回は個人的な理由でどうしても自分でケリをつけたかったんですよ。ちょっと感情的になっていた部分はありますけど……でも完全に壊滅させたわけじゃないですよ?愛ちゃんみたいに物理的に建物全体をぶっ壊すようなことはしてませんから!」 「やだねぇ、さすがに私だってそこまでのは……若い頃しかしてないよぉ?――」 ***

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