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夜明けの星 1-30(夏樹)
「ナツ、俺ら今からそっち行くから、雪ちゃん拾って行ってやろうか?」
斎 の携帯から隆 の声がした。
はい、嫌な予感的中~!!兄さん連中が今からこっちに来る!?
「えっ!?いやいやいや、待って!隆さん、いいからっ!俺もう帰るし……」
「ぁん?せっかくみんなが揃うのに、お前帰っちゃうの?」
「う゛……いや、でも……雪夜にはまだ――」
「白季 組のこと話してねぇんだろ?わかってるって。そっちでゆっくり話せばいいじゃないか。どうせ話すならどこで話したって一緒だ。そっちで話した方が雪ちゃんだって納得しやすいだろ?」
正論っぽいけどそういう問題じゃなくて……
「んじゃ、そろそろ雪ちゃんのいる佐々木くん家に着くから、また後でな~!」
「ええ!?ちょっ、待っ……!!」
もうすぐ佐々木の家に着くって……計画犯かよぉおおおおおおっ!!最初からそのつもりだったんじゃねぇかっ!!
夏樹は愕然として思わずその場に崩れ落ち、両手を畳についた。
その夏樹の肩を斎がポンと叩いた。
「まぁまぁ、ナツ。お前も詩織さんが来た時点で薄々こうなるってわかってただろ?」
「それはそうですけど~……」
軽く口唇を尖らせて斎を見上げる。
夏樹は今日詩織が来ることも知らなかった。
斎が言うように、詩織が来た時点で少しだけ……もしかしてとは思った。
だが、いつも詩織は唐突にやって来るし、今回の件でいろいろと後始末をしてもらったので、愛華たちにその話をしに来たのだろうと思っていた。いや、思い込もうとしていた。
こんなに見事に全員集合するということは、つまり愛華が最初から何もかも仕組んでいたということだ。
横を見ると詩織と瀬蔵が腹を抱えて笑い転げていた。
くっそぉ!まんまと嵌 められた!!感謝してるなんて言わなきゃ良かったあああああああ!!!俺のばかぁああああああ!!!
夏樹が悔しさをにじませながら愛華を睨みつけると、愛華がしたり顔で笑った。
「まだまだ甘いねぇ坊や」
「うるせぇよっ!ぐるになって嵌めやがって!!」
「凜坊がさっさと雪夜を連れて来ないのが悪いんだよ」
「だから、こっちにもいろいろと事情があるんだって!あんたらの暇つぶしに雪夜を巻き込むなよ!」
「やれやれ、全く、ピィピィうるさい雛だねぇ。文句があるなら相手してやるよ?」
「文句はあるけどお断りしますっ!!」
「チッ……つまんない子だねぇ……」
勝手に雪夜を巻き込んだ愛ちゃんには腹が立つけれど、うっかり挑発に乗って愛ちゃんの相手をして、ボロボロになっているところを雪夜に見られるなんて絶対に嫌だっ!
ボロボロになるのは前提なのが悔しいけどっっ!!
そんなことより……
夏樹は急いで雪夜に電話をかけた。
***
「もしもし、夏樹さん!?」
1コールで雪夜の弾んだ声が聞こえて来たことに、思わず口元が綻んだ。
昨夜、今日の用事が済んだら迎えに行くと連絡してあったので、夏樹からの連絡を待ちかねてくれていたのだろう。
「あ、雪夜?今どこ!?」
「え、佐々木の家にいますよ?もう用事は終わりましたか?」
「そかそか、え~と……うん、用事は終わったんだけどね……あのね、もうすぐそこに隆さんたちが迎えに行くから。あ、多分裕也さんもいるはず。裕也さんはわかるよね?」
「え?あ、はい……あ、ちょっと待ってくださいね、今誰か……」
――雪夜~!裕也さんがお迎えに来たって言ってるけど、夏樹さんからなんか聞いてるか~?
――あ、こんにちは!あの今ちょうど夏樹さんから電話で……はい、荷物取って来るんでちょっと待っててください!
遠くの方で佐々木たちと話している声が聞こえる。
「もしもし、今ちょうど来てくれました。あの、裕也さんと一緒に行けばいいんですか?」
「うん、俺のいるところまで連れて来てくれるから。ごめんね、俺が迎えに行ければ良かったんだけど、今ちょっと身動き取れないから……」
「え!?だ、大丈夫なんですか!?……何かあったんですか?」
雪夜が若干声を潜めた。
「あぁ、いや、心配しなくても大丈夫だよ。詳しくはこっちで話すね――」
「はい、わかりました……それじゃまた後で!」
通話を切って顔をあげると、みんなの視線が夏樹に集まっていた。
「な、なんだよ!?」
「ふぅ~ん?」
「へぇ~……?」
「ほぉ~ん?」
「どんな返事だよそれっ!!」
「いやぁ~……だって……ねぇ?」
愛華たちが両手で口元を押さえ生暖かい目と笑いを堪えたような微妙な表情でこちらを見ていた。
「ちょっと斎さんも!何笑ってんですか!?」
愛華に聞いても答えてくれないので、愛華たちと夏樹の間で双方の顔を見てブハッと吹き出した斎に矛先を向けた。
「ははは、いや、俺は別にもう見慣れてるけどな?そりゃ、お前……愛ちゃんたちは初めて見るんだからこういう表情にもなるって」
「どういう意味ですか?」
「え、お前自分が雪ちゃんと話す時どんな表情してるか気づいてねぇの?」
「は?」
「いや、そっか。そうだよな、自分じゃわかんねぇよな」
斎がうんうんと一人で納得して夏樹の肩をバシバシ叩いた。
地味に痛い。
「だから、何の話ですか!?」
俺の表情が何だって!?
どういうこと!?
困惑する夏樹を見て、詩織たちが堪えきれなくなったように吹き出すと、また腹を抱えて爆笑した。
何なんだよもう……っ!!
***
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