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夜明けの星 1-31(雪夜)
「隆 さんたちがお着きですよ」
「おいーっす、お待たせ。愛ちゃん、瀬 ちゃん、詩織 さんお久しぶりです」
雪夜たちは神川 という人に案内されて、大きな和室に入った。
隆たちは部屋に入ったところで一旦足を止め、中にいる誰かに挨拶をした。
「ぶっ……あ、ごめんなさいっ!」
雪夜はキョロキョロしながら歩いていたので、隆たちが止まっていることに気付かず背中にぶつかってしまった。
背の低い雪夜には隆の背中しか見えないので、誰に挨拶をしているのかわからない。
夏樹さんはどこにいるんだろう――……
***
裕也が迎えに来てくれた車は、何というか……佐々木曰く「いかにも……って感じのいかつい黒塗り……」だった。
車には、裕也の他に夏樹が電話で言っていた隆という人が乗っていた。
顔を見た瞬間、あの日、斎と一緒にいた人だとわかって少しほっとした。
裕也も隆も優しくて面白いので道中退屈はしなかったが、どこに向かっているのかは教えてくれなかった。
裕也と隆の会話から、どうやら裕也たちの友人、つまり夏樹の兄的存在の人たちが勢ぞろいするらしいのはわかったが……
夏樹さん……お兄さん多すぎじゃないですか!?俺覚えきれるかなぁ……
――着いたところは、和風建築の大きな豪邸だった。
さすがにここまでくれば、鈍感な雪夜にだって薄々ここがどういう場所なのかわかる。
怖い人たちがいっぱいいるところだ。
窓の外の黒スーツ姿の人たちを見て思わず顔が引きつる。
本能的に身体が逃げようとしていたが、裕也に手を繋がれていたので逃げることが出来なかった。
出迎えてくれた黒スーツ姿の人たちは言葉遣いは丁寧だけれど何だか威圧感があった。
でも、何よりも……ビクついている雪夜に、笑顔で「だ~いじょうぶ、大丈夫!怖くないよ~」と言って繋いだ手をブンブン振りながら黒スーツ姿の人たちの前を鼻歌混じりに歩いて行く裕也が、いろんな意味で一番怖かった。
夏樹さん助けてぇええ~~!!
***
「雪ちゃん、おいで~」
夏樹を探そうと隆の後ろでキョロキョロしていると、裕也が手を引っ張って前に連れ出してくれた。
室内には、見知らぬ人たちと、斎さんと……
「雪夜あああああああああ!!!!」
「夏樹さん!……ぅわっ!?」
夏樹の顔が見えてほっとしたのも束の間、雪夜はすごい形相ですっ飛んで来た夏樹に腕を掴まれた。
「ちょぉ~~~っとこっち来て!!」
「えっ?あの、夏樹さん!?」
夏樹がそのままの勢いで雪夜を引っ張って歩き出す。
どこ行くの!?俺、まだ挨拶とか何にもしてないけど……いいのかな……
「お~い、ナツ~!晩飯までには帰って来いよ~」
「わかってます!」
斎に返事をしながらも足を止めない夏樹に引っ張られて廊下に出た。
「俺の部屋に行く。誰も近づけさせるな。特に中のやつら!!」
「……一応、善処します」
「お願いだから全力で頑張って!!」
「夏樹さんが勝てないのに、私が姐さんたちに勝てるとでも?あなたのために命捨てろと?あなたが組を継いでくださるなら私は心置きなく喜んで命捧げますが?」
「ぅ~~~……命は大事に!!」
「承知しました」
夏樹はにっこり笑った神川に渋い顔で軽く舌打ちをすると、また雪夜を引っ張って歩き始めた。
「あの、夏樹さん!?痛いです……待ってくださいっ!」
夏樹さんイラついてる?何で?俺何かした!?来ちゃダメだったの?
「え?あぁ、引っ張っちゃってごめん!痛かったよね、大丈夫?」
雪夜の声に夏樹がはっとした顔で足を止め、手を離した。
慌てて雪夜の腕を撫でる様子から、雪夜に怒っているわけではないとわかって少し安心する。
「大丈夫ですけど、あの、どうせならちゃんと手……繋いでください」
本当はそんなに痛かったわけじゃない。
夏樹がイラついている理由がわからなかったので思わず「痛い」と言ってしまったのだ。
それに、腕を掴まれて引っ張って行かれるとか、なんか連行されてるみたいだし……
雪夜が夏樹に手を差し出すと、夏樹が少し驚いた顔をした後、ふわっと笑って手を握って来た。
「これなら痛くない?」
「はい!あの、どこに行くんですか?」
「俺の部屋。この先の離れにあるんだ」
「夏樹さんの部屋……ですか?」
「うん」
夏樹が少し困ったような微妙な顔で微笑んだ。
「今はそれ以上聞かないで」と言われたような気がして、黙ってついていくことにした。
***
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