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夜明けの星 1-34(夏樹)
「雪夜、そんなに考え込まなくてもいいよ。大好きって言ってくれただけでもう――……」
「あのね、俺、ヤクザさんって今まで会ったことがないからよく知らなくて……」
「ん?」
うん、まぁそうだろうね……?
「でも、夏樹さんがとっても優しいのは知ってます。それに夏樹さんは意味もなく誰かを傷つけるようなことはしないでしょ?緑川先生の時だって、俺が襲われかけたから助けてくれただけだし……だから、夏樹さんは怖くないです!」
「そか……ありがとう」
「それに、まだ会ったことないから勝手な想像ですけど、ここの組長さんたちも、良い人たちなんだろうなって思います。だって、夏樹さんをこんな素敵な人に育ててくれたんだし、それに、組のことを話してる時の表情を見れば、夏樹さんにとって組長さんたちがすごく大切な人たちなんだろうなってわかるし……」
別に俺は雪夜に瀬蔵や愛ちゃんのことを良い人だとは話していない。
世間一般のヤクザに対するイメージはあながち間違っちゃいないし、ヤクザなんて、ろくなもんじゃないのは確かだ。
だけど、俺は白季組 に来て救われた。それも確かなことだ。
愛ちゃんにこの部屋を貰って、初めて安心して過ごせる場所が出来た。
家に帰るのが苦じゃなくなったから夜遅くまで外で時間潰しをしなくても良くなったし、その分勉強に集中出来るようになって大学にも行けた。
今の俺があるのは、確実に瀬蔵と愛ちゃん、それに詩織さんや兄さん連中のおかげだ。
だからと言って、雪夜に白季組や瀬蔵たちのことを好きになって貰おうとは思っていない。
むしろ、怖がって関りを持たないでいてくれた方が、面倒事に巻き込まれずに済むし……
でも、そうは思っていても自分にとっては大切な人たちだから……やっぱり……
「雪夜にそう言ってもらえて嬉しいよ!」
夏樹は満面の笑みで雪夜を抱きしめた。
「……夏樹さん?」
「ん~?」
「……なんでもないです」
夏樹が雪夜の肩に頭を乗せ額を擦りつけると、雪夜がよしよしと頭を撫でてくれた。
いつもと逆だな……っていうか、バレてんなこれ……あ~もう……ほっとして泣くとかださすぎる……
雪夜ならちゃんとわかってくれると信じていても、自分の過去を誰かに話すこと自体初めてだったので自分で思っていた以上に緊張していたらしい――
***
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