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夜明けの星 1-35(夏樹)
「……夏樹さん、泣いてる?」
夏樹の耳元で雪夜が囁いた。
「……ナイテナイヨ」
「あの……えっと……俺どうしたら……してほしいことあります?」
もうとっくに涙は止まっているけれども……泣いたのが気まずくて顔を伏せたままだったので、雪夜はまだ夏樹が泣いていると思っているらしい。
動揺しているのか、誰もいないのに声を潜めて話す雪夜が可愛くて思わず笑いそうになる。
夏樹は顔をあげようとして少し考えると、もう一度雪夜を抱きしめ首元に顔を埋めた。
「ん~……もうちょっと撫でて?」
「はいっ!」
真剣に返事をした雪夜がぎこちなく夏樹の頭を撫でてくる。
目の前にある雪夜の首筋がピンク色に染まっていた。
雪夜また緊張しちゃってる……?
「――……」
「ひゃんっ!」
雪夜がピクッと首を竦 めて夏樹の頭をぺちっと叩いてきた。
「痛っ、ちょ、雪夜さん!?それは撫でるって言わないよ!?」
「だって、夏樹さんが、へ、変なことするからですっ!」
「変なことって何?」
「く、首っ……何かしたっ!……え?今何かしました……よね……?」
雪夜が軽くテンパって首を押さえながら後退 った。
「え、首がどうかしたの?」
夏樹は笑いを堪えながら、逃げようとする雪夜の腰を掴んで抱き寄せた。
「美味しそうだったから舐めただけだよ?」
「な、何やってんですかっ!美味しくないから舐めちゃダメですっ!!」
「え~?じゃあ食べていい?」
「え……夏樹さんお腹空いてるんですか?」
「ふはっ!」
雪夜が小首を傾げながら夏樹の言葉に真顔で返して来たので、堪えきれずに吹き出してしまった。
「ふ……くくっ……」
「何ですか!?何笑ってんですかっ!!」
「いや……ははっ……そうじゃなくて、雪夜が食べたいって意味なんだけど?」
「俺?……あっ!」
ようやく夏樹の言葉の意味に気付いた雪夜が、真っ赤になった顔を覆って俯いた。
「――ね、食べていい?」
「……ぇ……いやそれは……その……」
「さっき話が終わったらいいって言ってたよね?」
「えっ!?い……言いましたっけ?」
「言ってたよ?俺が聞き逃すはずないでしょ」
「ぅ……あの、でもまだお風呂入ってないしっ……」
「ここにあるよ。一緒に入る?」
離れには一通りの設備が揃っている。
夏樹は母屋の大浴場を使う方が好きだったのであまり使用していないが一応シャワールームもある。
「ええっ、ちょ、夏樹さんどこに手入れて……っんぁ」
雪夜の首筋を舐めながら服の中に手を入れて弄 っていると、雪夜の携帯が鳴った。
「あ、で、電話!夏樹さん、ちょっと待ってっ!」
「後でいいんじゃない?」
「急用かもしれないしっ!」
「……ソウデスネ」
仕方なく携帯を取って雪夜に渡す。
「も、もしもし!?……あ、佐々木?どうしたの?……うん、大丈夫だったよ。うん、今ね夏樹さんの部屋にいるんだよ~!……あ、うん、ゼミのやつ?――」
電話の相手は佐々木で、ゼミの連絡をしてきたらしい……
佐々木ぃ~~!!それ電話じゃなくても良くないか!?お前絶対わかっててかけてきてんだろっ!!
夏樹は一瞬携帯を奪って佐々木に文句を言おうかと思ったが、雪夜が愉しそうに話していたので邪魔をするのは諦めた。
いや、邪魔なのは佐々木なんだけどな!?
ふんっ……と小さく鼻を鳴らして雪夜の隣でゴロンと横になると、一人寂しく枕を抱えてふて寝をした――……
***
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