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夜明けの星 1-39(夏樹)

――じゃあ、またに関しては後日ね」    帰り際、裕也が夏樹に耳打ちしてきた。  例の件とは、裕也に頼んであった雪夜の件のことだ。   「はい、よろしくお願いします」 「ナツ~、お前だいぶ酒弱くなったか?あれくらいで酔ってんなよ」  ガシッと肩を組んできた浩二の腕をため息交じりに外す。 「浩二さんたちが強すぎなんですよ。っていうか、は別に酔ってたわけじゃないですからっ!浩二さんたちこそ、もう年なんだから酒は控えた方がいいですよ」 「何言ってんだよ。ちゃんと控えてるぞ?若い頃に比べたら俺らも飲む量はだいぶ減らしてるし。なぁ、(いつき)?」 「ん~?あぁ、そうだな。あ、玲人(れいじ)、詩織さんここに放り込んでいいぞ」  適当に相槌を打った斎が、詩織を担いでいた玲人に自分が乗る車を指差した。 「それじゃ、俺ら詩織さん送って帰るわ」 「雪ちゃんによろしくな」 「はい、兄さんらも気を付けて」  夏樹は自分の倍以上飲んでおいて顔色一つ変えていない兄さん連中を生温い目で見送った。 *** 「凜坊はどうするんだい?」  兄さん連中の乗った車を見送りながら、隣にいた愛華が聞いてきた。 「俺も帰りますよ」 「……そう言うとは思ったけどねぇ……でも、雪坊は寝ちゃってるんだし、泊まっていけばいいじゃないか」 「そうですね、どっかのおっさんたちが酒飲ませたせいでね!ったく、雪夜には絶対に飲ませるなって言っておいたのに!!」  思わず語気を荒げた夏樹の肩を、愛華が「落ち着け」という風に軽く撫でた。 「それは確かにあの二人が悪かったけどねぇ、飲ませたって言っても、無理強いしたわけじゃないし、お猪口に半分入った日本酒をちょっと舐めたくらいだよ?まさかあんなに酒に弱いとはねぇ……」 「雪夜はチューハイでも一缶飲み切れないくらい酒に弱いんだよっ!」 「おやまぁ……今度からはジュース用意しなきゃだ」 「愛ちゃん、そういう問題じゃないからっ!」 「わかってるよ。まぁ、一気飲みしたわけじゃないんだから、しばらくしたら抜けるだろ。あんたも少し落ち着きな」    雪夜は今、大広間の隣の部屋で瀬蔵と並んで大の字で寝ている。  瀬蔵と詩織が軽いノリで酒を飲ませたせいで、酔っぱらってひっくり返ったのだ。  それを見た夏樹が二人にブチ切れ、殴りかかろうとして兄さん連中に取り押さえられるという一幕があった。  結局、夏樹の代わりに愛華が畳にめり込む程のげんこつをお見舞いして二人を伸してくれたので何とか夏樹の溜飲も下がったが……(欲を言えば瀬蔵は夏樹に残しておいて欲しかった……)  先ほど浩二に言われたのはこの事だ。  兄さん連中が夏樹を止めた理由はわかっている。  いくら夏樹にとって父親のような存在だと言っても、瀬蔵だけならまだしも詩織まで殴ってしまうと、あれでも一応龍ノ瀬組(よそ)の組長なので若頭の三郷(みさと)に経緯を説明しなければいけない。それが面倒なのだ。  でも三郷はなぜか愛華がしたと言えばすぐに納得する。  愛華もそれを知っているので、兄さん連中が夏樹を止めている間に代わりに殴ってくれたのだ。 *** 「それにしても……あんたが他人のことであんなに慌てるなんてねぇ。珍しいもんが見られたよ」  愛華がさも愉快そうにクスクスと笑った。  自分でも冷静さに欠けていたという自覚はある。  顔じゃなくて、もっと目立たないところを狙っておけば、みんなに止められることはなかったのだ。 「くそっ!腹を狙えば良かった……」 「そうだねぇ、詩織を相手にする時は見えないところにしておくべきだね。今度から覚えておきな」 「そうする。それじゃ、また顔見せにくるよ」 「また雪坊も連れてきておくれ」 「……一応考えておく」 「一応?」 「ぅ゛~~~……瀬蔵のおっさんがいない時なら……」 「ふふ、わかった。それでいいよ」  愛華が妥協して苦笑すると、夏樹と夏樹に抱っこされている雪夜の頬をぺちぺちと撫でた。 「いい子だねぇ……いろいろと複雑な過去があるみたいだけど、現在(いま)のこの子を知ってるのはあんただけなんだから、自分の眼を信じな?」 「……裕也さんから何か聞いた?」 「直接聞いたわけじゃないけど、裕也の持ってる情報はほぼ私も見られるからね。まぁ……あの子のことだから、わざと私に見せたのかもしれないけど……」 「そうですか……」  裕也と愛華はお互いのネットワークを使って集めた情報の交換をよくしている。  裕也に頼んだ時に、愛華にもバレるのはわかっていたが、愛華が雪夜を気に入った様子なので少し安心した。 「まったく、面倒なのを背負い込んだもんだと思ったけど、あんたたちを見てるとね……こればっかりは仕方ないね。ま、何か困ったことがあったらいつでも言ってきな?雪坊のためなら私も一肌脱ぐよ」 「ありがと。まぁ、今はまだ裕也さんに調べて貰ってる最中だから……このまま何もなければ一番いいんだけどね――」 ***

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