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夜明けの星 1.5-5(夏樹)

「納得できない?」  夏樹はまだ悶々と考えている雪夜を覗き込んだ。    う~ん……今回はやけに粘るなぁ~……  雪夜はネガティブ思考に陥るとなかなか浮上しない。  大抵は自分を責めて落ち込んで……  根が真面目で素直だから余計に、誰かを傷つけてしまった時のショックが大きいのだろうと思う。  ちゃんと自分で気持ちを整理するのが一番だとわかっているけれど、あまり考え込むとそのまま発作が起きることもあるので夏樹としてはなるべく早く話を切り上げて、これ以上沈まないようにしてやりたかった。  というか、今回のことはそんなにショックを受けるようなことじゃない。  わざとじゃないんだし、俺は雪夜が誰かれ構わずに他人の個人情報を勝手にペラペラ喋るようなことはしないと知っている。  それに……夏樹としては別に白季組と関わりがあることを周囲に知られても何も問題はない。  職場は浩二の会社なので、白季組と関わりがあるからと言って不当な解雇をされる心配はないし、同僚たちも、みんなそれぞれに叩けば埃の出るやつらばかりなので、他人を詮索するようなことはしない。  夏樹にとって問題なのは……心配なのは、雪夜が巻き込まれないかという点だけだ。  だからあの二人に話したことはそこまで気にすることはないんだけど、どういえば納得してくれるかなぁ…… 「雪夜、あのね、失敗は誰にでもあるんだよ。失敗したと思ったら次から同じ失敗をしないようにすればいい。だいたいね、それくらいで信用や信頼を失ってたら、俺なんかもう雪夜の中じゃ信用ゼロどころかマイナスになってるよね!?雪夜よりも俺の方が失敗しまくってるんだから!」 「夏樹さんでも失敗するんですか?」  雪夜が意外そうな顔で夏樹を見た。  あ~……そうか。そうだね、そのことでも話そうか。  残念ながら、全然意外じゃないんだよな~…… 「あっちに行こうか」  夏樹は雪夜の手を引いてソファーまで連れて行くと、膝の上に座らせて向かい合った。 「って、何でこの体勢……っ」  慌てて膝から下りようとする雪夜を抱きしめて、首筋に軽く口付ける。  反射的に雪夜が夏樹の服をぎゅっと握りしめてきた。  このまま、なし崩し的にえっちに持ち込むのは簡単なんだけど……それだと何も解決しないよな~……  雪夜の肩に顔を埋めてしばし煩悩と戦う。 「……ねぇ雪夜。俺が雪夜と付き合ってから何回雪夜のこと泣かせたか知ってる?」  夏樹は小さく息を吐いて顔を上げると、苦笑いをしながら雪夜を見た。   「え?夏樹さんに泣かされたこと……ですか?」 「あ、ベッドの上のは別だからね?」 「ベッ……!?何言ってるんですか!」 「はは、ごめんごめん、今のはちょっと冗談。でも、それ以外で俺が泣かせちゃった時のこと覚えてる?」  雪夜が斜め上を見て少し考え、思い当たることがないという顔で小首を傾げる。  やっぱりそうなるか……  夏樹はちょっと困った顔で笑うと、雪夜の額にコツンと額をくっつけた。 「俺ね、雪夜に出会うまで本気で人を好きになったことないから、今まで付き合った子とも上辺だけの付き合いしかしてこなかったんだよね。俺の言動で相手を傷つけたとしても、それで相手に嫌われたとしても、どうでもいいと思ってたから、本当に自分本位な考え方しかしてこなかったんだよ。だけど、雪夜のことは傷つけたくないし嫌われたくない。悲しませたくないし雪夜にはいつだって笑ってて欲しいと思う――……」  少し伏し目がちに話す夏樹の手を雪夜がぎゅっと握ってくれた。  だからね……こういうところが――…… ***

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