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夜明けの星 2-2(雪夜)

 楽しみ……だったんだけどなぁ~……  雪夜はそっとため息を吐いた。 ***  ――16時頃、バイトに行く佐々木たちと別れて、図書館に移動した。  館内ではマナーモードにしているので、夏樹からの連絡を見逃さないように机の上に置いてレポートをしていた。  そして、今さっき。  夏樹から電話がかかってきた。  いつもはメールで知らせてくるのに電話なんて珍しいなと思いつつ、慌てて図書館の外に出た。 「は、はいっ!」 「雪夜?え、大丈夫?何だか呼吸が苦しそうだけど……?」 「あ、の、図書館っ、に、いた、からっ……はぁ、はぁ、っ、今、外に出て……」  そんなに走ったわけでもないのに、焦ったせいか思ったよりも呼吸が乱れた。  他の人の邪魔にならないように、図書館前の階段の端に座り込む。 「あぁ、今日佐々木たちバイトか……ごめん、先にメールすれば良かったよね。焦らなくていいから、ゆっくり深呼吸して」 「だ、い、じょ……ぶですっ!……はぁ……ケホッ……あの、えと、もうお仕事終わりましたか!?」 「あ~……えっとね……そのことなんだけど――」  夏樹が歯切れの悪い返事をした。    どうしたんだろう、あ、もしかして…… 「お仕事……遅くなりそうですか?あの――……」 「はぁ~い、雪ちゃん、久しぶりっ!俺のことわかる~?前にナツの家で会ったでしょ?コージお兄さんだよ~!」 「ふぇっ!?」  急に夏樹以外の人の声が聞こえてきたのでびっくりして携帯を落としそうになった。  というか、落とした。  ちょうど鞄の上に落ちたので、慌てて拾い上げる。  え?誰!?……前に会った……こーじお兄さん……あ、えっと…… 「社長さん?」 「そうそう、ナツの会社の社長さん。コージお兄さんだよ~!」 「あ、あの、えっと、お久しぶりです!」 「覚えててくれて良かったよ~!でね、本題なんだけど、今日こいつとデートだったんでしょ?俺はね、可愛い弟と雪ちゃんのデートの邪魔をするつもりなんて全然ないんだよ?ただ、今夜はうちの会社の未来(あす)を左右する重要なパーティーがあってね、ナツがど~~~しても必要なんだわ。で、この埋め合わせは必ずするから、本当に申し訳ないんだけど、ちょ~~っと今夜はナツをお兄さんに貸してもらえないかな~?」 「……え?」 ――雪夜っ!ダメって言って!イヤって言ってっ!! ――うるせぇよナツ!お前に拒否権はねぇの!うちの会社がどうなってもいいってか? ――俺は今夜パーティーがあるなんて聞いてませんっ!服も持って来てないしっ! ――往生際が悪ぃぞ!?服なら俺の貸してやるっつってんだろっ!  電話の向こうで夏樹と浩二が言い争う声が聞こえて来る。  とりあえず、夏樹も寝耳に水の話だったのだろうと言うことはよくわかった。  だいたい、夏樹が最初からパーティーに出るつもりだったなら、わざわざ晩御飯を外で食べようなんて誘ってこないだろうし、パーティーに出るということも昨夜話してくれていたはずだ。    会社の未来を左右する……ってことは大事なお仕事ってことだよね……  お仕事…… 「あの、わかりました!」 「え?」 「お仕事があるから今日の晩御飯は一緒に食べられないってことですよね?わかりました。えっと、あの、それで何時くらいまでかかりそうですか?遅くなりそうなら俺友人のところにでも泊まって……」 「ああ、そうそう、そうなんだよ。全く、仕事だっつってんのにナツはガキみたいに駄々こねて……ナツよりも雪ちゃんの方がよほど物分かりがいいなぁ。え~と時間ね、う~ん……まぁ深夜にはなるかなぁ……あ、雪ちゃん今大学の図書館にいるんだっけ?もうちょっとしたらね、代わりのやつがお迎えに行くからそれまで待っててくれる?」 「え?お迎えですか?」 「うん、雪ちゃんもよく知ってるやつだから。裕也って覚えてるかな?」 「あ、はい!」 「そいつが行くから待ってて。んで、ナツの裕也と一緒にいてね。それじゃ、ちょっとナツ借りま~す!」 ――あ、ちょ、浩二さんかわって――…… 「――……」  あ、切れちゃった……  恐らく浩二が問答無用で切ったのだろう。    本当は夏樹さんとの食事デート……ちょっと楽しみだったんだけどな~……  でも仕事なら仕方ないよね……    携帯を見つめてため息を吐くと、鞄を持って立ち上がった。  あ、そういえば裕也さんが来てくれるんだっけ。  浩二は社長なので、夏樹がしょっちゅう雪夜のせいで仕事を休んでるのは知ってるだろうし、もちろん、その理由も知っているはずだ。  だから、浩二なりに一応気を使ってくれたのだろう。  でも、夏樹さんが帰って来るまで裕也さんと一緒に待つ……って、え、晩御飯とかどうすればいいんだろう?裕也さんとどこかに食べに行くのかな?コンビニに寄って貰う?どうしよう!? 「ゆ~きちゃん、何グルグル回ってんの~?」 「あ、裕也さんっ!」  雪夜が晩御飯の心配をしてその場を行ったり来たりしている間に、裕也が迎えに来ていた―― ***

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