233 / 715
夜明けの星 2-5(雪夜)
「お邪魔しま~す!」
「あ、はい。どうぞ~……って俺が言うのも変ですけど……」
雪夜は急いで裕也にスリッパを出した。
あれ?っていうか、裕也さん車で来てるんだし、別に俺の荷物を家に置きに帰って来る必要ってなかったんじゃ……?
裕也の行動がよくわからない……
「あ!この映画いいよね~!僕これ好きなんだ~!ちょっと観てもいい?」
「え?あ、はい!どうぞどうぞ!」
テレビ台の下を物色していた裕也が、アクションコメディ映画のディスクを取り出し、慣れた手付きでプレーヤーをいじって映画を見始めた。
裕也さんはここに来たことがあるのかな……
雪夜が夏樹と同棲を始めてからこの家に出入りしたのは、雪夜の知っている限りでは佐々木と相川だけだ。
だが、裕也たちとは長い付き合いらしいし、なんだかんだで仲も良さそうなので、家に遊びにきたことがあっても不思議じゃない。
雪夜が知らないだけで、ここに来たことのある人はたくさんいるはずだ。
もちろん夏樹さんが以前付き合っていた人たちも……
夏樹がモテるのは知っているし、過去に付き合っていた人がたくさんいるということも知っている。
そして、夏樹が今は雪夜を溺愛してくれているということも知っている。
だから別に夏樹の過去の女性関係なんて気にしたこともなかった。
なのに、なんで急に気になっちゃったんだろ……
「……ちゃん!ゆ~き~ちゃん!?」
「……?ぁ、はい!何ですか!?」
「どうしたの?大丈夫~?雪ちゃんもこっちに来て一緒に観ようよ~!」
「あ、はい!大丈夫です!すみません、ちょっとボーっとしちゃってました~!」
いやいや、何考えてんだ俺。
裕也さんは俺のためにわざわざ来てくれてるのに、裕也さんを放置して余計なことを考えてボーっとしてるなんて失礼だよね……
雪夜は自分で両頬を軽くペチンと叩いて一旦考えるのを止めると裕也の隣に座った――
***
「はぁ~!面白かったぁ~!」
裕也が両手を上にあげて大きく伸びをした。
結局、二人で映画を最後まで鑑賞してしまった。
あ、終わっちゃった……
えっと、次どうするんだろう?
晩御飯食べに行くのかな?
そうだっ!何食べるか決めてなかった!どうしよう!?え~と……え~と……
「さてと……雪ちゃん、今気になることって何?」
「えっと牛丼っ!!」
「へ?」
「え?」
二人でしばし見つめ合う。
「ぶはっ!……っははは!……違うよ雪ちゃん!晩御飯の話じゃなくてね?」
「え?ち、違うんですか?」
てっきり晩御飯のことを聞かれると思っていた雪夜は、裕也がどうして爆笑しているのかわからず困惑した。
「うん、晩御飯じゃなくて、雪ちゃんが今一番気になってることは?」
笑い泣きをしていた裕也が涙を拭いながらもう一度問いかけてきた。
「一番……気になってる……こと?」
俺が今一番気になってること……?
そんなの……決まってる……
「雪ちゃんの頭の中に一番に浮かんだことだよ」
「それは……あの……夏樹さん何時に帰って来るのかな~って……」
「だよね~!やっぱり気になっちゃうよねぇ?せっかくのデートをコージのバカに邪魔されちゃったんだし?」
「え、あの、そ、そんなことは……ちょっと残念だなって思っただけで……でもお仕事だから……」
「ねぇ、雪ちゃん。なっちゃんが今何してるか見たくない?」
「え……?」
「どんなお仕事してるのか見てみたくない?」
裕也がグイッと前に乗り出してきたので、雪夜は勢いに押されて思わず後ろにのけ反った。
「それは……見てみたいです……けど……」
「よぉ~し!じゃあ、いこっか!」
裕也が両手をパチンと合わせて、満面の笑みで雪夜を見た。
「え?行くってどこへ?」
「なっちゃんのところに、だよ!」
「……え?……えぇええっ!?」
夏樹さんのところに……行く?
え?どういうこと?
だって、今夏樹さんはお仕事中で――……
驚きすぎて思考停止した雪夜は、気がつけばまた裕也の車に乗せられていた。
***
ともだちにシェアしよう!