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夜明けの星 2-6(雪夜)
ちょっと寄り道するね~!と、裕也に連れて来られたのは、ちょっとえっちなお店がいっぱいある通りの片隅にひっそりとある小さいお店だった。
暗い階段をどんどん下りて行くので、雪夜は映画とかでよく見る悪の組織の秘密基地にでも連れて行かれている気分で内心ドキドキしていた。
扉を開けて中に入ると秘密基地ではなく普通のお店だったので、半分ほっとして、半分がっかりした。
雪夜のような学生はあまり来ないような大人な雰囲気のお店なので、興味津々で店内を見ていると、カウンターの奥の扉が開いた。
「お、雪ちゃんいらっしゃーい!久しぶりだね、元気だった?」
バーテンダーの恰好をしているその人が、手を振りながら話しかけてきた。
店内は少し薄暗いから一瞬わからなかったけれど、確か夏樹さんの実家で会ったお兄さんたちのうちの一人だ。
名前はえ~っと……
「あ……はいっ!えっと、晃 さん!」
「そぅそぅ、よく覚えてたね」
にっこり笑った晃が、雪夜の頭をポンポンと撫でてきた。
……んん?
そうかっ!わかった!夏樹さんがよく俺の頭を撫でてくれるのは、お兄さんたちの影響だっ!!
夏樹の実家で会った時も、みんなが雪夜の頭を撫でてくれた。
もうそんな頭を撫でてもらうような年齢じゃないんだけど……とちょっと複雑だったけれど、バカにされてるような嫌な感じは全然しなかった。
きっと夏樹さんも、お兄さんたちにいっぱい頭撫でてもらったんだ!
だから夏樹さんは俺の頭をよく撫でてくれるんだ!そうに違いない!
「ユウ、もう斎 来てるぞ」
雪夜がひとりで納得しているのを横目に、晃が目で奥を指した。
「はーい!それじゃ、雪ちゃん行こうか~」
「え?あ、はい」
裕也に手を引かれて、たったいま晃が出て来た扉に入って行く。
そこはスタッフルームになっているらしく、休憩用のソファーやロッカーがあるだけのシンプルな小さい部屋だった。
え?誰もいないけど?
雪夜がキョロキョロしていると、裕也がスタスタとスタッフルームの奥の壁に向かっていった。
何の変哲もないただの壁だったのに、裕也がスッと手で撫でるとガタンと音がして壁が動いた。
「……へ?」
え、ちょ……今の何!?
自動ドア的な何か!?
いや、でも全然ドア的な線とか枠とか見えなかったし……ただの壁だったのに!?
雪夜が動いた壁と裕也を交互に4度見くらいしている間に、壁が閉まってしまった。
あれ?閉まっちゃった……
「ちょっと、雪ちゃん!?何してるの、入っておいで?」
茫然と壁を見つめていると、慌てた顔で裕也がまた壁を開けてくれた。
「え?あ、は、はい!」
壁の向こう側には、店よりも広いくらいの空間があって、クラブやスナックのようなお店にありそうな豪華なソファーやテーブルが置かれていた。
でも、壁の一角にはそんな空間に似つかわしくない大きなモニターがたくさん並んでいて……
あれ……?やっぱりここって秘密基地だったのかな……?
「いっちゃんお待たせ~!」
呆気に取られている雪夜の横で、裕也が場違いな程に明るい声で手を振った。
「おう。お前に頼まれてた物、一応いくつか見繕ってきたぞ」
豪華なソファーに座っていても全然違和感がない斎が優雅にグラスを持ち上げた。
「お~!さすがいっちゃん!」
「雪ちゃん、こっちおいで」
「あ、はい!斎さん!お久しぶりです!」
「ん、久しぶり。元気か?」
斎が雪夜の頭をわしゃわしゃと撫でまわした。
「わっ……は、はい、元気です!」
「……うん、そうみたいだな。良かった!」
斎はしばらく雪夜の顔を覗き込んだあと、ふわっと優しく微笑んで、裕也と一緒にソファーの上に服を並べ始めた。
ん?服?なんだろう、この服……
「さ~て、お着換えタイムだよ~!雪ちゃん、ちょっとこの服着てみようか!」
「え?この服ですか?」
俺が着る服だったの!?
「うん。あ、そこで着替えて」
「え、ここでですか!?」
「ん?あぁ、着替えてるところは見ないから大丈夫だよ~?どうしても気になるようなら、この奥に洗面所があるけど……」
「あ、いや、別にそれはいいんですけど……わかりました」
別に男同士だし、素っ裸になるわけじゃないし、着替えるところを見られるのはどうってことないんだけど……ただ、どうしてここでこの服に着替えるのかがわからない……
夏樹さんのところに行くんじゃないのかな……
困惑しながらも、いつの間にか雪夜は裕也の勢いに押されて次から次へと渡される服に着替えていくだけの着せ替え人形になっていた――
***
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