235 / 715
夜明けの星 2-7(雪夜)
「雪ちゃん、胸張って!キョロキョロしない!堂々としてないと怪しまれちゃうよ?」
「はわっ!?」
隣に立つ裕也に背中を軽くポンッと叩かれて、雪夜は思わず前につんのめった。
裕也が腕を掴んでくれたので転ばずにすんだがもう少しでそのまま倒れるところだった。
軽く叩かれただけなのによろめくとか恥ずかしいぃ~!
真っ赤になった顔を見られたくなくてますます俯いてしまう。
「おっと、ごめんごめん、ちょっと強かったね。大丈夫?」
「あ、は、はい!」
「雪ちゃん、そんなに緊張しなくてもだ~いじょうぶ!今日のパーティーは堅苦しいのとは違うから気楽にしてればいいよ」
気楽にって、そんなこと言われても……こんなところ初めて来たから……
雪夜は隣でにっこりと笑っている裕也を見た。
そうだ、せっかく裕也さんが連れて来てくれたんだもんね……よしっ!
深く息を吸い込んで、裕也に言われた通り顔を上げて精一杯胸を張ってみた。
横を通り過ぎていくご婦人方から「あら、お可愛らしい」「緊張してるのかしら」「よく似てらっしゃるわね、ご兄弟かしらね」という、なんともお上品なクスクス笑いが聞こえて来る。
えぇ、緊張してますとも!!こんな格好したのも、こんなパーティーに来たのも、こんな……こんな……豪華客船に乗ったのも生まれて初めてですからぁああああああああああ!!!
雪夜は心の中で思いっきり叫んだ――……
***
――晃の店で裕也と斎に遊ばれながらパーティースーツに着替えた雪夜は、いつの間にか同じようなスーツに着替えていた裕也に連れられて、とある豪華客船に乗り込んだ。
浩二に連れて行かれた夏樹は、この豪華客船で開かれているパーティーに参加しているらしい。
つまり、お仕事中の夏樹に会うには、雪夜たちも豪華客船に乗り込む必要があるわけで、そのためのお着替えだったのだ。
雪夜は小柄なので、既製品だと腕や足の長さが合わず、何となく七五三感が否めないのだが、なぜか斎が持って来てくれたスーツはどれも雪夜にピッタリだった。
斎さん曰く、「服のサイズなんて一回抱けば(抱きしめれば)わかるだろ?」ということらしいけど……ちょっと何言ってるのかわかんないです……
乗り込む時には名簿をチェックされたのだが、なぜか普通に裕也と雪夜の名前もあった。
最初から雪夜もここに連れて来るつもりだったということなのだろうが、裕也の考えていることがよくわからない……
いや、この場合は浩二の計画なのだろうか……?
雪夜たちが乗り込んだ時にはもうパーティーは始まっていた。
裕也が、「こういうパーティーは最初は主催者の挨拶とか堅苦しい話ばかりでつまらないから少し時間が経ってから入った方がいいんだよ~」と言って、わざと少し遅れて来たのだ。
パーティー会場に入ると、ある意味雪夜たちは注目の的だった。
雪夜と裕也は背格好もよく似ているし、二人とも童顔で、スーツもよく似たデザインのものを着ている。
傍から見れば、参加者の子どもが二人仲良く入って来たように見えたのかもしれない。
実際は親子程も年が離れてますけどね!?
「あ、ほら、なっちゃんいるよ!」
「え?」
さすがに人前なので裕也が控えめに指差した。
その方向を見ると、会場の前の方で大勢の女性に囲まれている夏樹の姿が目に入った。
***
ともだちにシェアしよう!