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夜明けの星 2-10(夏樹)
「……雪夜?」
「はい!」
「え、ちょ……ぇえっ!?何でここにいるの!?」
夏樹はガバッと起き上がって、雪夜の顔を両手で挟み、ムニムニと揉んだ。
カメレオンボムの話をしていた後だったので、一瞬あいつが化けているのかと思ったのだ。
「おおおおにゅかれひゃまれふ !」
雪夜はいくら顔を揉まれても夏樹の手を振り解こうとはせず、されるがままになっていた。
あ、紛れもなく本物だ。
「あ、うん、ありがとう……って、そうじゃなくてっ!家にいたんじゃないの!?」
「えっと……裕也さんが連れて来てくれました」
夏樹に揉みしだかれてほんのり赤くなった頬を押さえながら、困ったような顔で雪夜が笑った。
「え……裕也さん?あ、そうだ!裕也さんは!?」
「はいはーい、ここにいるよ~?」
声のした方を見ると、浩二の隣で裕也が手を振っていた。
「いたっ!!いや、何でいるんですかっ!?」
裕也さんは雪夜を迎えに行って、俺が帰るまで雪夜と一緒にいてくれるって話だったんじゃなかったのか!?
「何でいるのって、僕が雪ちゃんを連れて来たからに決まってるでしょ~?」
「そそ、優しいお兄さんたちからちょっと早いクリスマスプレゼントだ」
「……へ?」
プレゼントってこういうことかっ!!
クリスマスプレゼントが雪夜とか何それ最高じゃないですかっ!!
プレゼントとかどーでもいいだなんて言ってすみませんでした!!
「浩二さ~~…………ぁん?って、いやいや、ちょっと!!」
一瞬感激しかけたけれど、すぐに冷静になって浩二を部屋の隅に引っ張って行った。
めちゃくちゃ嬉しい!嬉しいんだよ?嬉しいけれども……
「浩二さんっ!!あんた一体何考えてるんですかっ!?何で雪夜をこんな……こんな爆弾魔が乗ってる危険な船に連れて来ちゃったんですかっ!?」
一応雪夜に聞こえないように声を押し殺して浩二の耳元で怒鳴った。
「いや~……ははは、まぁ落ち着けって。それに関しては俺だって完全に予想外だ。俺はただ、こんな豪華客船に乗る機会なんてなかなかないだろうし、雪ちゃんも喜ぶかな~っと思ってだな……まさか爆弾魔が乗り込んで来るだなんて思わねぇだろ?んなこと最初からわかってたらさすがの俺だって雪ちゃんを呼んだりしねぇよ!」
「それはそうかもしれませんけど……」
浩二に悪気がないのはわかっている。
本当にただ良かれと思って雪夜を呼んでくれたのだろう。
そうだよな……雪夜はこんな船乗ったことないよな~……俺も数回しかないし……
せっかくだからゆっくり船の中を見て回って、食事して、って船内デートしたいけど……今夜はそれは出来そうにない……
それもこれもカメレオンボムのせいで……!!っつーかカメレオンボムって名前長いんだよっ!!あんな野郎、カメでいいわカメで!!
だんだんとカメレオンボムに腹が立ってきた。
でもそれはただの八つ当たりだ。
爆弾魔 を事前に弾けなかったのは俺の責任だ……
俺がもっと早く気付いていれば……っ!
小さい船と違って、こういう船は簡単には沈まないように設計されている。
沈めるにしても時間がかかるので、乗船客が逃げる余裕はたっぷりある。
海のど真ん中と違って港からもあまり離れていないので、救命ボートに乗っていればすぐに助けもくる。
それがわかっているから、浩二と悠長に冗談を言い合っていたのだ。
でも、雪夜がいるとなると話は別だ。
これ以上雪夜のトラウマを増やすわけにはいかない!
早くカメを捕まえないと……
「とりあえず裕也も来たし、爆弾さえ見つけりゃ解除できるはずだから、何とかなるだろ」
「早く探して下さいっ!!そして雪夜と俺のために一刻も早くヘリを呼んで下さい!タグボートでもいいです!」
「うわ~……もうホントお前……清々 しい程に雪ちゃんしか眼中にねぇな」
「当たり前です。雪夜が一番大事ですから。まぁ、それはともかく、爆破する前にあいつはこの船から逃げ出すはずなんで、甲板も見回った方がいいですよ」
「そのつもりだ。とにかく、俺と裕也は爆弾探しに行ってくるから、お前はしばらく雪ちゃんと休憩してろ。あ、でもまた何かあったら呼びだすから、携帯の電源は切るなよ?」
「わかってます」
浩二はニカッと笑うと裕也を連れて部屋を出て行った――
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