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夜明けの星 2-12(夏樹)
「ごめん、ちょっと強引だった」
雪夜を抱き寄せると、開 けた胸元を直しながら謝った。
一応キスまでで止めていたつもりだったのだが、無意識に脱がしかけていたらしい。
いや、ほら……勝手に手がね……?
ボタンを引きちぎってないところだけは自分を褒めたい。
「……え?ぜっ、全然大丈夫ですよ!?気持ちよか……ったし……」
雪夜が、さっきのキスを思い出したのか頬を染めて俯いた。
ほ~?気持ち良かったんだ?
そういえば雪夜はMっ気があるし、実はちょっと強引なのも好きだったりする?
まぁ、それはまた改めて試すとして……
「そっか。なら良かった。で、どうしたの?何かあった?」
「え?」
「さっき裕也さんが何か言ってたでしょ?」
部屋を出る直前、裕也が雪夜に「ちゃんとなっちゃんに言うんだよ~」と何やら意味深なことを言っていたのだ。
「あっ……あああの、あれは……何でも……」
「何でもない顔じゃないでしょ?……俺には話せないこと?」
「えっと……あの……」
「うん」
「さっき、パーティー会場で……夏樹さんを見つけて……」
「え、会場にいたの?なんだ、声かけてくれたらよかったのに」
「だって、夏樹さんお仕事中だったから……」
「あ~……まぁ、それはそうだけど……仕事って言ってもパーティーだから普通に話すことはできるよ?」
「……夏樹さん……女の人に囲まれてたから……」
「あ゛……」
あ~……そこ見られたのか……
「いや、あのね、あれは――」
「あれもお仕事なんでしょ?裕也さんが教えてくれました。それに夏樹さんがモテるのはいつものことだし……だから別に……」
「雪夜?」
「でも……ね?……俺……」
「ん?」
「あ……いえ……大変ですね、お仕事」
何か言いかけた雪夜が言葉を濁して無理やり微笑んだ。
「大変っていうか……こういうパーティーの場合は面倒くさいかな。愛想笑いするのもこういう恰好するのも疲れるから」
「お疲れ様です」
「うん、ありがとう。それで?」
「え?」
「それだけじゃないでしょ?」
夏樹が覗き込むと、雪夜が言葉に詰まって口をパクパクさせながら視線を泳がせた。
あ~これ本気で困ってるな。
そんなに言いにくいことなのか?
でも裕也さんには話したんだよね……?
夏樹は小さくため息を吐くと、雪夜に微笑んだ。
「わかった。そんなに言いたくないならもういいよ。裕也さんには言えたんでしょ?俺にも話して欲しかったけど、雪夜が一人で抱え込んでないならそれでいいよ」
雪夜は緑川の時は佐々木にさえ話すことが出来なかった。
それに比べれば……今回は裕也さんに話せてるだけマシだ。
後で裕也さんに聞いてみるか……
「ち……違うんですっ!裕也さんにも言ってない!でも何か裕也さんにはバレちゃったみたいで……裕也さんは言った方がいいって……お仕事が終わったら言ってもいいんだって言われて……それで夏樹さんに……っ」
雪夜が話し始めてくれたものの、一体何を言いたいのかわからない。
「え~と……裕也さんに何を言った方がいいって言われたの?」
「だからっ、その、俺が思ったこととか、感じたこととか、ずっと我慢することはないんだって……」
「うん、何を我慢してたの?」
「それは……えっと……」
雪夜がハッとしたように夏樹を見て固まった。
「ん?」
「……我慢、してるわけじゃなくて……お仕事だから……仕方ないし……夏樹さんはモテるから……」
んん?
あ……そうだ。雪夜のこの感じ……前にもこんなことあったな……
言いたいことがあるのに言葉を飲み込んで今にも泣きそうな顔で夏樹を見て来る雪夜の様子に見覚えがあった。
このままだとちょっとヤバいかな~……まぁいいか。
「雪夜、裕也さんが俺に言った方がいいって言ったんでしょ?大丈夫だから言ってごらん?」
「……夏樹さんが……女の人……に……囲まれて……」
雪夜が言葉を絞り出すようにポツリポツリと呟く。
「ベタベタ触られてるのとか……っ……っあ、愛想笑いしてるのとか……じっと見つめてるのとかっ……俺……あんなキレイな人たちには勝てないからっ……でも、だって夏樹さんは俺のなのにって……」
雪夜の強張った頬を涙が静かに流れていく。
涙混じりの言葉の羅列は、つまり……
「俺が女の人たちに囲まれてたのが嫌?」
雪夜の涙を指で拭いながら聞くと、雪夜が顔を横に振った。
「お、お仕事だからっ……仕方ないし……っ」
「うん、でも嫌だったんだ?」
「……違うっ!」
「何が違うの?」
「嫌じゃないっ!だって夏樹さんだし……仕方ないし……でもなんかっ……モヤモヤして……頭の中がぐちゃぐちゃになって……もうやだぁ~……っ……ッ」
あ……っと、限界か。
「雪夜、わかった、もういいよ!おっと、逃げないでっ!!」
キャパオーバーでパニックになった雪夜がベッドから下りようとしたので慌てて抱き寄せた。
「よしよし、わかったから、ちょっと落ち着こう?ね?」
「いやだっ!はなしてっ!」
手足をジタバタさせて雪夜が逃げようともがく。
「離さないっ!!こ~ら、雪夜危ない!暴れたら雪夜も痛いでしょ?」
「やだぁ~っ!!」
「はいはい――」
雪夜が暴れるのを押さえるのも慣れた。
だいたい雪夜は力が弱いので思いっきり叩かれても全然痛くない。
引っ掻かれるとちょっと痛いけど……
ただ、押さえ方によっては逆に雪夜がケガをしてしまうので力加減が難しい。
こうなる前に止めるつもりだったのに、ちょっと浮かれてタイミングを間違えたな……
思わずにやけそうになるのを必死に堪えて、雪夜に負担がかからない程度に強く、優しく抱きしめた――
***
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