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夜明けの星 2-13(夏樹)
しばらく抱きしめて頭を撫でていると、暴れ疲れた雪夜が力を抜いた。
「ん、落ち着いた?」
「……っぅ……ごめ……なさい……っ」
鼻をすすりながら気まずそうに呟く。
「謝らなくていいよ。ところで雪夜くん?」
「……はぃ」
「俺が女の人たちに囲まれてる時に雪夜が感じてた気持ちは一般的にやきもちって言うんですよ」
「……っ!」
雪夜がビクッと身体を硬くした。
どこに怯える要素があるのかわからず、夏樹の方が戸惑ってしまう。
何をそんなに怖がってるんだ……?
「雪夜が嫉妬してくれたのは俺としては嬉しいよ?それだけ俺のことが好きってことでしょ?っていうか、俺なんて嫉妬しまくりだし――」
「ぇ……っでも……嫌いって……」
「え?」
「嫉妬深いのは嫌いって……言ってた……」
「誰が?」
誰だよそんなこと雪夜に吹き込んだの!
「夏樹さんが……」
……んんっ!?俺!?
「待って、いつ!?」
「最初の頃……」
最初の頃って……出会った頃ってこと?え、俺そんなこと言った?
いやいや、そんなこと言…………ったね~……言ったわ……あ~……言っちゃってたわ……うん。
言われてみれば、出会ってすぐの頃にそんな話をした覚えがある。
ちょっと待って!もしかして俺が嫉妬深いの嫌いって言ったせいでそんな怯えてたの!?
「……え~と……うん、確かに言ったけど、それは今までの女がって話で……」
「嫉妬深いのもワガママなのもウザいって……面倒だからウザくなったらすぐに……わ、別れるんだって……だから俺……」
おい、過去の俺ぇえええええええ!?
やだもうっ……数か月前に戻ってその俺殴りたい……っ!!
「……えっとね……雪夜、最初の頃に俺が言った戯言 は一旦っていうか、もう永久に全部忘れて下さい!!お願いしますっ!!」
たぶんその感じだと他にも余計なこと言ってるだろ俺っ!
もうお願いだから忘れてっ!!
「……え?」
「あのね、俺はちゃんと好きになったのは雪夜が初めてだって話したでしょ!?だから、それまでの相手とはその、恋愛感情とかなかったから、好きでもない相手に嫉妬していろいろ言われたりワガママ言われたりするとウザいっていう……あ~もう!とにかく!雪夜には嫉妬して欲しいし、ワガママもいっぱい言って貰いたいの!!」
焦るあまり若干早口で捲 し立てたせいか、雪夜が困惑して小首を傾げた。
「今までワガママが言えなかったのは俺のその言葉を気にしてたせい?」
「……だって……夏樹さんはもっとワガママ言っていいよって言ってくれるけど……言い過ぎると嫌われちゃうし……緑川先生にも、甘え過ぎるとウザがられるって言われたし、俺ただでさえ不安定になってる時は……夏樹さんに迷惑かけまくってるみたいだし……だからやきもちとかワガママとか……これ以上言わないようにしなきゃって……」
緑川ぁあああああ!!お前も何余計なこと言ってくれてんだっ!!
いや、もとはと言えば俺だけどっ!!俺が一番悪いんだけどもっ!!
「嫌いになんかならない!迷惑だなんて思ってないよ!もっといっぱい甘えて欲しい。それに俺への不満や文句だって、いろいろ思ったことを我慢しないで言って欲しい。言っていいんだよ!」
「……ウザくない?」
「全然ウザくない!」
「……わ、別れ――」
「ませんっ!!」
「あ……はぃ」
夏樹の勢いに圧倒されて、雪夜が目をぱちくりさせた。
***
心から愛しい人が出来て初めて言葉の重みを思い知る。
自分の言葉に責任を持てとはよく言ったものだと思う。
一度口に出してしまった言葉は、なかったことにはできない。
今でこそ雪夜を傷つけないように言動に気を付けるようになったけれど、雪夜に恋愛感情を抱いていると気付くまでの俺が放った何気ない言葉が、一体どれほど雪夜を傷つけているのだろう……
「ごめん……」
あ~もぅ……ほんと俺サイテーだな……
雪夜に申し訳なさ過ぎて、両手で顔を覆った。
「え、あの……」
「本当にごめんね……」
「……あ~……あの、えっと……じゃ、じゃあ、一つワガママ言ってもいいですか?」
「いいよ!!なぁに!?」
「あの……ね?……パーティーとかで女の人に囲まれるのはお仕事だから仕方ないけど……そういうお仕事の時は……帰ってきたらいっぱいギュッてして……欲しいです……」
ん?……いやそれ俺にとってのご褒美でしかないんだけど?
「……ダメですか?」
「全然だめじゃないよ!?いっぱいギュッてするよ!」
そんなのワガママのうちに入らないんだけどな~……
むしろ、俺が癒されたいから、雪夜に言われなくてもめちゃくちゃギュッてするし……!
雪夜の可愛いワガママに思わず苦笑してギュッと抱きしめた。
「っていうか、ギュッだけでいいの?」
「はい!」
「え……!?あの~……その先は?」
「いっぱいギュッてしてくれたら大丈夫です!」
無邪気に笑う雪夜は可愛いけれどもっ!!
ちょっと待て!!
それは俺が大丈夫じゃないですっ!!――……
***
――落ち着きを取り戻した雪夜とイチャイチャしながら他愛のない会話を楽しんでいるところに、浩二さんから「すぐに来てくれ」と連絡が入った。
少し迷ったが、何が起こるかわからない中ひとり残していくのは不安だったので、雪夜を連れて部屋を出た。
その判断を後になって大いに悔やむことになるとは、この時は全く思いもしなかった――
***
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