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夜明けの星 2-14(夏樹)

「ちょっとだけデートしよっか」  浩二に呼び出された場所に向かう途中、雪夜と一緒に遠回りをして少しだけ船内を見て回った。  雪夜は広くて豪華な船内に圧倒され、「ほえぇ~……」「わぁ~……」と感動しっぱなしだった。  ずっとキョロキョロしているので、しょっちゅう(つまず)いて転びそうになる。  あまりにも危なっかしいので手を繋いでいたのだが、繋いでいることにも気づいていないくらい夢中になっていた。 *** 「あ……あの、夏樹さん」 「ん?」 「あの……今更だけど、お仕事中に押しかけちゃってごめんなさい……っていうか、俺も一緒に行って大丈夫なんですか?」  ひとしきり感動した後、我に返った雪夜が今更ながらに申し訳なさそうな顔で夏樹を見た。 「全然大丈夫だよ。本来の仕事はもう終わってるからね。それに俺は雪夜が来てくれて嬉しいよ。浩二さんと違って、俺はこういうパーティーは苦手だからめちゃくちゃストレス溜まってたんだけど、雪夜のおかげで癒されたしね」 「……俺なんかで癒されますか?」  雪夜がちょっと眉間に皺を寄せて訝し気な顔をする。    え、何その顔。雪夜は出会った時から俺の癒しですけど? 「俺って言わないの!俺を癒せるのは雪夜だけだよ。雪夜じゃないとダメなんだってこと、ちゃんと覚えておいて?」  雪夜の額を軽く指で弾いて、肩を抱き寄せると耳元で囁いた。 「っ……!そう……ですか?……そっか……へへ、良かったぁ~!」  額を押さえながら噛みしめるように呟いた雪夜の顔にゆっくりと笑顔が広がっていく。  ほらもう!その笑顔が最高の癒しなんだよ!他に人がいなけりゃキスしてんのにっ! 「んん゛っ……そういえば、その恰好どうしたの?」  キスをしたい衝動を抑えるためにわざとらしく咳をして、話題を変えた。 「あ、えっと実は裕也さんが迎えに来てくれてから――……」  雪夜が、電話を切った後のことを話してくれた。 「なるほど、(あきら)さんのところに行ったのか。スーツは(いつき)さんが選んでくれたんだ?よく似合ってるね。髪もちょっと切った?」  斎のセンスが良いのは知っている。  雪夜のように小柄で童顔の場合は、どうしてもスーツを合わせるのは難しいのだが、斎と裕也がスタイリングしてくれたのなら違和感がないのも納得だ。  まぁ、雪夜はどんな格好しても可愛いけど。 「はい。斎さんがセットしてくれる時にちょっと毛先も整えてくれました!」 「そかそか、カッコいいね!」 「ありがとうございます!……あの、夏樹さんも素敵ですね。とっても恰好良いです!」  雪夜がちょっとはにかみながら微笑んだ。 「ホント?この服大丈夫?」  夏樹が着ているのは浩二の服なので、褒められるのは微妙な気分だ。  でも、雪夜に格好良いと言われるのは嬉しい。 「はい!何だか、初めて会った日のこと思い出しちゃいました。あの日も夏樹さんそういうお洒落なスーツ着て……」 「あ~、あの日は吉田の結婚式の帰りだったからね」  夏樹はあの日の自分の醜態を思い出して、苦笑いをした。 *** 「へぇ~そうだったのか~」  急に背後からガシッと肩を組まれてよろけた。 「こ、浩二さん!」  後ろに誰かいるのはわかっていたが、殺気は感じなかったので特に気にしていなかった。 「よう!雪ちゃん、船の中見て来たのか?」 「はい!ちょっとだけ見てきました!なんかね、船の中なのに、いっぱいいろいろあって凄かったです!」 「そかそか、ごめんな~?もっとゆっくり見せてあげたいんだけど、ちょっとだけナツ借りるね!」 「はい!あ、俺ここにいると邪魔ですか……?」 「ん?いや、邪魔じゃないよ。ナツも俺もいるから一緒にいても大丈夫だろ」  雪夜がほっとした顔で夏樹を見てきたので、安心させるように微笑んでポンポンと頭を撫でた。 「ところで浩二さん……どこから聞いてました?」 「え~と……『俺は雪夜が来てくれて嬉しいよハートマーク』のとこから」  そんなところから聞いてたのかよっ!! 「もっと早く声かけてくださいよ!!っていうか、何ですかハートマークって!」 「え?ついてただろ?語尾に」 「ついてません!!」 「ははは、ところでナツ、やっぱお前ビンゴ!」  浩二が笑顔で雑談でもしている風を装って夏樹にだけ聞こえるトーンで話す。 「ありましたか?」 「あった。どでかいのが下に数か所。あいつのマーク入り。今裕也が解除してる」 「上には?」 「今探してるところだ。一つ甲板の方で見つけたって知らせが入ったから、これから様子を見に行こうと思ってな」 「甲板のどこですか?」 「救命ボートのあたりだ」 「あ~なるほど……ってことは……他のボートも調べた方がいいかもですね」 「やっぱお前もそう思う?」  ただのカムフラージュならもう少し上の階に設置していると思ったのだが、ボートのあたりにあるなら、恐らく――……  ただ、爆弾魔(カメ)はそっちの手段は使わないと思っていたので少し意外ではあった。 「――そうなんだよな~。な~んか今回のは、あいつらしくねぇんだよ……」 「あいつらしくはないけど、一人とは限らないですからね。単独プレイを好んでいたはずですけど、この数年で方針を変えた可能性もあります。もしかしたら他にも――」  浩二と話しながら、ひとまず爆発物らしき物が見つかったという甲板に向かった―― ***

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