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夜明けの星 2-15(雪夜)

「わぁ~海の匂いがする!なんだか風までしょっぱーい!」 「雪夜、風が出て来たから手すりから離れて。雪夜は軽いから飛ばされちゃうよ。ほら、危ないからこっちおいで」  夏樹が冗談めかしながら雪夜を呼んだ。 「はぁい!」    夏樹と浩二は救命ボートの近くで何やら真剣な顔をして話し込んでいた。  雪夜は夏樹に言われた通りに手すりから離れ、差し伸べられた手を握って壁にもたれると、港の方向に目を向けた。  夜の海は初めてだ。  海面が想像以上に黒くて驚いた。  昼間見る海は青くてキレイなのに、どうして夜になるとこんなに禍々しいのだろう……  暗闇から聞こえて来る波の音と風の音に引きずり込まれそうになる……  怖い……  でも、船の甲板には明々と灯りがついているし、海岸線に見える街の灯りは少しだけ夏樹と見た星空を思い出す。  それに……  夏樹がすぐそばにいる。  小声で話しているので内容まではわからないが、風に乗って夏樹の声が聞こえてくる。  雪夜がちょっと不安になって繋いだ手をぎゅっと握りしめると、夏樹も軽く握り返して、どうしたの?と目顔で問いかけてくれる。その瞳に何だかほっとする―― *** 「――じゃあ、俺はこっち側から見て回るわ」 「わかりました。それじゃまた後で。雪夜おいで、ちょっと散歩しよう」 「はい!」  夏樹と一緒に、浩二とは反対方向に歩き始めた。  二人が一体何を調べているのかわからないけれど、夏樹と一緒にいられるだけで雪夜は満足だった。  夏樹と並んで歩こうとした時、前からドレス姿の女性が歩いてきた。  この船は今夜はマダムの貸し切りだと言っていたので、恐らくパーティーの参加者なのだろう。  キレイな女の人だな……  パーティーの参加者なら、夏樹さんを取り囲んでいた女の人たちの一人かもしれない。  ふとそう考えて一瞬胸がもやっとした。  あ、手離さなきゃ!  女の人たちと仲良くするのが夏樹さんのお仕事なら、(おれ)と手を繋いでいるところを見られるのは、たぶん……いろいろと不都合なはずだ。  雪夜が慌てて手を離そうとすると、夏樹が反対の手で握り直して雪夜を背後に引き寄せた。 「っぅぷっ!」  不意に手を引っ張られたので夏樹の背中に顔をぶつけた。  女性がその様子を見て、口元を手で隠しながらふふっと笑い、軽く会釈をして通り過ぎた。    夏樹に何か話しかけて来るんじゃないかと思って身構えていた雪夜は、少しほっとした。  が、女性が通り過ぎた瞬間、夏樹が険しい顔つきで振り返った。  夏樹は驚いている雪夜に携帯を渡しながら、小声で「浩二さんに連絡して」と言うと、女性を追いかけて行った―― ***

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