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夜明けの星 2-17(夏樹)
――浩二が言っていた爆発物はすでに裕也の指示で処理されていた。
爆発の規模としては、救命ボートに小さい穴を空ける程度か、救命ボートを固定している部位を壊す程度……
少し知識があれば解除できるレベルの単純明快な作りからしてやはり、船底に設置されている爆発物から目を逸らさせるためのカムフラージュだと思われた。
爆弾は間違いなくカメのオリジナルだ。
裕也曰く、プロの犯罪者にはそれぞれに特有のクセがあり、自分の作品に本人にしかわからない跡 を残す者も多い。
カメの爆弾も簡単なものから複雑なものまで全て独特のクセがあるのでよくわかる。らしい。
しかし……設置場所を見る限り、何となく違和感がある。
今までのカメなら、先に小さい爆発を起こして逃げる猶予を与えていた。
この船から逃げるためには救命ボートが必需品だ。
そのボートを破壊してしまうと、逃げ場がなくなってしまう。
まぁ、この船の位置ならボートがなくても生存確率は高いが……それにしても……
こんなやり方はカメらしくない。
「一応、他にもないか探すか」
「はい」
すでにカムフラージュ用のものも含めて複数の爆弾を見つけて解除してあるらしいが、相手にそれを気づかれないように、まだ見つけていないフリをする必要がある。
それに、全部で何個仕掛けられているのかがわからないので、まだ油断はできない。
カメ以外にも絡んでいるなら、他の手で来る可能性もある。
メインと思われる爆弾は解除できているので、最悪の事態は免れるとは思うのだが……
「実行するとしたら~……もう少ししてからだな」
浩二が腕時計を見た。
「そうですね……それもカメの場合……ということなので、何とも言えませんけど」
「だな……じゃあ、俺はこっち側から見て回るわ」
「わかりました。それじゃまた後で。雪夜おいで、ちょっと散歩しよう」
***
雪夜を連れて浩二とは反対方向に歩き始めた時、前方からドレス姿の女性が歩いてきた。
パーティーなので、ドレス姿の女性がいるのはおかしくはない。
が、ここにいるのはおかしい。
今夜は貸し切りでこの船に乗船しているのはスタッフとパーティーの参加者だけだ。
船内は広いので、セキュリティの観点から元々パーティーの参加者が立ち入れる場所は制限してある。
立ち入れるのはパーティー会場と、個別に話がしやすいバーやラウンジ、客室は休憩用に数部屋だけ用意している。
それから、甲板 。
甲板はあえて立ち入り禁止にはしていない。
だが、こんな寒風吹き荒れる中ドレス姿でここを歩きたいと思う女性はなかなかいない。
向こうも甲板に他に人がいるとは思っていなかったのだろう。
俺たちの姿を見て一瞬怯んだのが気になった。
女性が近付いて来るのを見て雪夜が急いで手を離そうとしたので、反対の手で握り直して軽く引っ張った。
「ぅわっぷ!」
夏樹の背中に雪夜が顔をぶつけたのを見て、女性がクスッと笑って通り過ぎる。
……っ!?
その瞬間、疑惑が確信に変わった。
女性の顔には見覚えがあった。
パーティーで夏樹に言い寄って来ていたうちの一人だ。
顔もドレスも全く同じ。
でも、手付きや目つきなどの微妙な仕草が違う。
それに彼女なら今の雪夜の様子を見て、あんな反応はしない。
爆弾魔 だっ!
夏樹は雪夜に携帯を渡し、小声で浩二に連絡を入れるように言うと、さりげなさを装って女性を追いかけた。
***
雪夜から離れたのはほんの数分。
たった数メートル。
――ちょっと手を伸ばせば届く距離……のはずだった……
***
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