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夜明けの星 2-25(夏樹)
「よぅイッキ、頼まれてた物持って来たぞ~!」
「お、ありがと。タカ、うちの可愛い奥さんは元気だった?」
「お前がいないから淋しいって泣いてたぞ~」
「え……マジで!?電話しなきゃっ!」
「嘘に決まってんだろ。とりあえず元気だったよ。お前のこと心配してたぞ?また仕事詰め込み過ぎてオーバーワークになってんじゃねぇかって」
「え~?企業の方休んでるからその分仕事量は減ってるし大丈夫だって言っておいたのに……俺信用されてねぇな~」
「ま、日ごろの行いのせいだな。ところで……ナツは何やってんだ?」
「あ~、何か雪ちゃんの友達に退院したこと話してなかったらしくて、お叱りを受けてるっぽい」
「はぁ?なんだそりゃ」
「それより今夜の――」
斎と隆がそんな会話をしながらこちらを見ている横で、夏樹は携帯に向かって全力で頭を下げていた。
***
「ったく!退院するならするってちゃんと教えてくれないと!お見舞いに行ったらもういないって言われて驚いたっつーの!!」
「すみません……いや、でもホントに隠してたとかじゃなくてな?退院するのにバタバタしてたから、ちょっと連絡するのが遅れただけなんだって!」
「黙らっしゃい!!言い訳は聞きたくねぇよ!なぁ~にがちょっと遅れただよ。退院して何日過ぎてると思ってんだ!せめてその日に連絡してこい!」
「ごもっともです……」
「それより、家に帰ってないってどういうことだよ?」
佐々木が携帯の前で仁王立ちをして夏樹を見下ろして来る。
あ~もう!わざわざビデオ通話にして携帯越しに威嚇すんなよ!!
――あの事件の後、佐々木たちには雪夜が入院したことを黙っておくわけにいかないので、ある程度事情を話すことにした。
内容が内容なので、雪夜が病院で眠っている間に抜け出して、佐々木の家で夏樹が二人に直接説明をした。
怒るだろうとは思っていたが、雪夜が海に落ちて溺れたと言った瞬間佐々木に平手打ちをされたのはさすがに面食らった。
佐々木手が早いっ!!せめて最後まで話しを聞いてからにしてっ!?
とりあえず、夏樹が一緒に飛び込んですぐに助けたと聞いてそれ以上叩くのは止めてくれたが、その代わりに遅れてやってきた相川に今度は拳で殴られた。
別にどちらも避けようと思えば避けれたが、夏樹自身自分に嫌気がさしていたので大人しく殴られた。
でも、殴られた夏樹よりも殴った二人の方が泣きそうな顔をしていて……夏樹はただ二人に謝ることしか出来なかった――
で、またやらかしてしまったわけです。
雪夜を退院させることに頭がいっぱいで二人に連絡を入れることを忘れていた夏樹が、慌てて連絡しようとしたところに佐々木から怒りの電話がかかってきたのだ。
「え~とね、まだ安静にしてなきゃいけないから、静養するには家より別荘の方がいいかなと思って。山の中だけど、ここは以前も連れてきたことがあるし、景色もいいし、静かだし……」
「まぁ……雪夜が大丈夫なら別にいいけど……」
「病院にいた時よりも落ち着いてるよ」
「そうですか。なら良かったです」
佐々木と相川もバイトがない日はよくお見舞いに来てくれていたので、病院での雪夜の不安定な状態も知っている。
「あ、それで、前に言ってたことですけど、どうするんですか?」
「あぁ、ここでするつもりだから、当日お前らは車で迎えに行くよ。泊まる用意もして来いよ」
「わかりました」
「それじゃ、また連絡する」
「雪夜のこと、くれぐれもよろしくお願いします」
「はいっ!」
笑顔で圧をかけてくる佐々木に、思わずいいお返事をして急いで通話を切った。
「終わったか?」
「はい……って、あ、隆さん。来てたんですか」
夏樹が振り返ると、隆がお茶を飲みながら手を挙げた。
「おぅ、お前が携帯に向かって土下座してた時にな」
「土下座はしてませんよ!」
「今にもしそうな勢いだったけど?」
「ぅ……今のは佐々木っていう雪夜の友人なんですけどね、友人というよりおかんみたいな感じで……まぁ、雪夜にとって初めて出来た親友だし、雪夜が大学生活をちゃんと出来るようにいろいろと面倒も見てくれてるから俺も強く出られないっていうか……」
佐々木にやり込められているところを隆と斎に見られていたことがちょっと気恥しくて、言い訳交じりに首の後ろを掻いた。
「そうみたいだな。いい友達じゃねぇか」
「……ですね。あ、頼んでおいたもの持って来てくれました?」
「あぁ、持ってきたぞ。ついでに食材も」
「やった!今夜は隆さんが料理長でよろしくお願いします!」
「お前もかよ……何だよ、斎もお前も自分で作れるだろうが!」
「一応作れますけど、たまには隆さんの本格和食が食いたいです。雪夜は隆さんの料理食べたことないし」
「あ?そうだっけ。仕方ねぇな、雪ちゃんの為に頑張るか!お前手伝えよ?」
「もちろんです!」
夏樹は斎と顔を見合わせて悪戯っぽく笑うと、隆が持ってきた荷物を解きにかかった。
***
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