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夜明けの星 2-26(夏樹)
「おはよう雪夜、今朝は気分どう?」
夏樹はカーテンを開けながら雪夜に話しかけた。
「ん~……らいじょーぶれしゅ……」
「まだ眠そうだな。昨夜あんまり眠れなかった?」
「ん~ん。ぐっすりねらぁらふぁいじょぶ」
「雪夜あくびしながらだと何言ってんのかわかんないよ」
苦笑しながら雪夜の額に軽く口付けベッドに腰かけた。
ここに来てからは、夜もうなされる回数が減ってきている。
寝起きがいい時はあまり眠れていないことの方が多いので、雪夜が寝起きにぐずぐずなのは、ある意味それだけ深く眠れている証拠でもある。
「朝御飯食べに行こうか」
「あい」
「さて、雪夜くん。歩きますか~?抱っこしますか~?ちゅうしますか~?」
「……ころがりゅ」
「ん?」
そう言うと、雪夜はまたベッドに突っ伏してしまった。
「こらこら、夢の中に転がっていっちゃダメでしょ!雪夜、先にご飯!お薬飲んでからまた寝ようね」
「おくすりぃ~やだぁ~」
「やだけど飲んでおかないとね」
雪夜は薬が苦手なので、病院から出された大量の薬を飲ませるのは一苦労だ。
しかし、嫌がっても薬は必ず飲ませる。特に咳止め系の薬は……
高熱を出してから、元々弱かった気管支が炎症を起こしやすくなっているらしく、少しの刺激ですぐに咳が止まらなくなってしまうのだ。
***
「おぅ、おはよーさん」
「おはようございます。斎 さん、隆 さん」
「お~お~、雪ちゃんはまだおねむか~?」
隆が夏樹に抱っこされている雪夜の顔を覗き込んだ。
「はは、だ~めだこりゃ。完全に夢の中だな」
「え!?また寝ちゃってます?雪夜~!お~い」
夏樹が雪夜の背中をポンポンと軽く叩いて呼びかけたが、返事がない。
夏樹の首に腕を回してしっかり抱きついて来ているので一応爆睡はしていないはずだが……
「雪ちゃ~ん、朝飯食おうぜ。ほら、美味しいご飯だよ~」
隆が雪夜の鼻先に出汁巻きの乗った皿を近づけた。
実家の小料理屋を継いでいる隆は、元々若くして一流店の料理長にまでなったことのあるスゴ腕の料理人だ。
基本的には和食、割烹料理が得意なのだが、小料理屋を継いでからは洋食中華も作るようになったらしく結構何でも作ってくれる。
「ぅ~ん……ふぁ~……」
雪夜が目を閉じたまま匂いにつられて顔を起こした。
隆が皿を動かすと、雪夜の鼻がヒクヒクしながらついていく。
「おい、いつまで遊んでんだよ。飯食うぞ~」
雪夜の様子に笑いを噛み殺していた夏樹と隆に向かって、斎が呆れたように声をかけてきた。
だって、仕方ないでしょ!!雪夜可愛過ぎるんだもんっ!!
なんだかんだで斎も雪夜には甘い。
夏樹が雪夜を抱っこしたまま座ると、横から雪夜の口に出汁巻きを放り込んだ。
「むぐ……おいひぃ~!」
「お?お目覚めか?」
「なつ……あ、斎さんだぁ。おはようございます」
「ちょっと雪夜?今俺と斎さん間違えてなかった?」
「え?……そんなことないですよ?」
「今ちょっと考えたな!?」
へへっと笑って誤魔化した雪夜が、む~……と唸りながらグリグリと夏樹の胸に顔を擦り付けた後、膝から下りて隣に座った。
なに今の……ちょっと雪夜さん!?煽るだけ煽って放置していくの止めてくれないっ!?
俺のこの気持ち どうすればいいの!?
夏樹の気持ちなど完全無視で、雪夜が朝食に歓声をあげた。
「今朝も俺が作ったからな。美味しいぞ~?」
「隆さんおはよーございます」
「はい、おはよー!」
昨夜は隆が持って来てくれた食材で、精進料理を作ってくれた。
雪夜がまだあまり脂っこいものは食べられないからだ。
でも、肉が入っていないとは思えないボリュームで、夏樹たちも満足するように色々と工夫して作ってくれていたので、言われないと精進料理だとはわからない程だった。
ちなみに、夏樹も手伝って作ったが、それでも素材と味が結びつかないものが多々あった。
***
雪夜は、兄さん連中の前で夏樹に抱っこされたり甘えたりすることにはあまり抵抗がないらしい。
兄さん連中に初めて会った時にも夏樹に抱っこされていたので、今更取り繕っても仕方がないということかもしれない……
病院でも誰かしら傍に付き添っていたからか、雪夜の中では兄さん連中も甘えられる存在になって来ているようだ。
雪夜は甘え下手なので、甘えられる存在が増えるのはいいことだ。
だけど……夏樹としてはちょっと面白くない。
兄さん連中に懐くということは、夏樹だけの特権だった雪夜の甘えたな顔を兄さん連中にも見せるということだ。
おかげで、兄さん連中が雪夜にメロメロで……
ここに来てからも兄さん連中が入れ替わりにやって来ては雪夜に構っていくので、夏樹はほとんど雪夜と二人っきりになることがない。
まぁ、兄さん連中が雪夜をみてくれている間にリモートで仕事が出来るのでいいのだが……いいんだけど……淋しいっっ!!
これ、いっそ病院にいた時の方がイチャイチャ出来たんじゃないか!?
夏樹は急いで雪夜を退院させたことをちょっとだけ後悔した。
***
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