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夜明けの星 2-27(夏樹)

「雪夜、今日は天気も良いし暖かいから少し外出てみる?」 「はい!」 「じゃあ、こっちおいで」  暖かいとは言え、まだ真冬だ。それにここは山の中なので家にいる時よりも気温が低い。  夏樹は雪夜を上着とマフラーでもこもこにした。 「もこもこ~!」 「これでよし!テラスから出てちょっと池の周り一周してみようか」 「ふぁ~い!」 「なぁ、そんなにもこもこだと逆に歩き辛くないか?」  雪ダルマ状態の雪夜を見て、斎たちが笑った。 「でも風邪ひいちゃうかもしれないし……」  夏樹もこれはちょっとやり過ぎだとは思うが、今風邪をひくと確実にまた病院に逆戻りだ。 「まぁ、仕方ないか。よし、んじゃぁ行くか!」 「わぁい!行こ~行こ~!」  斎と隆が立ち上がると、雪夜がもこもこの腕をぴょこんと挙げた。 「え、兄さんらも行くんですか?」 「なんだよ?俺らが行っちゃダメなのか?」 「いえ、別に……イイデスヨ……」    雪夜と二人で散歩したかったのだが、雪夜が喜んでいるのでダメとは言えず、結局みんなで散歩に出た。 ***  別荘の真裏には、まぁまぁの大きさの池があって、その周りをぐるっと歩けるようになっている。  今は葉が落ちてわかりにくいが、この池の周りには等間隔に桜の木が植わっている。  春になると満開の桜が池に映って風情のある景色になるので、みんなでお花見をするのに持ってこいの場所だ。  去年の春はちょうど雪夜と別れ話が出て花見どころじゃなかったんだよな……  よし、今年の春は雪夜と一緒にお花見に来よう!  入院中ほとんど寝たきりだったせいで筋力と体力が落ちている雪夜は、歩くのも大変だ。  別荘の中を歩いてリハビリしているけれど、まだ油断をするとすぐに転んでしまう。  今も歩きながらしっかりと夏樹の腕にしがみついていた。 「あ、何か跳ねた!夏樹さん、見ました!?」 「ん?あぁ、池にいる魚かな。寒いのに元気だなぁ」 「お魚がいるんですか?」 「いるよ~。小さいのから結構大きいのまで。そんなに水深がないから上から見えるよ」 「へぇ~」  雪夜を散歩に誘ったのは、()への反応を見るためでもあった。  雪夜は、魚に興味は示したが、池の中を確認しに行こうとはしなかった。  近くを歩くだけなら今のところ平気そうだが、やはり、水辺は怖いのだろう。  腕にしがみついている雪夜の力の入り方が違う。  いくら俺がすぐに助けたと言っても、雪夜の最大のトラウマである暗闇の中で溺れて死にかけたのだから、本当ならもっとトラウマが酷くなって不安定になっていてもおかしくない。  病院にいる間は病院のトラウマの方が強く出ていたせいであまり他のトラウマは出ていなかったが、別荘に来て数日……そろそろ出て来てもいい頃だ。  お風呂は何とかクリアしたけど……それでも顔がだいぶ強張っていた。  きっと俺に心配かけないように、大丈夫なフリをしていたのだろうと思う。  不安定な時のように素直に怖がればいいのに……と思うが、それが出来ないのが雪夜だ。  やっぱりしばらくは水辺に連れて行くのは止めておいた方がよさそうだな。  雪夜が無理せずにゆっくりとトラウマを克服できるようにしてやらないと……  夏樹がそんなことを考えていると、水面を眺めていた雪夜がポツリと呟いた。 「……そうだ……思い出した……」  その言葉に、夏樹は一瞬短く息を吸い込んだ。  海で雪夜が呟いた言葉が頭をよぎる。  思い……出した……? 「……え?ごめん、何か言った?」  動揺しているのを雪夜に気付かれないように冷静を装って聞き返す。 「思い出しました!夏樹さん!」  ……あれ?  過去のことを思い出したにしては、雪夜の様子が…… 「思い出したって……何を?」 「ほら、あの……前に話したじゃないですか!俺の!」 「……あぁ、うん。え?それを思い出したの?」 「はい!えっと、何かよくわかんないけど、水面がキラキラしてるの見てたら何かこう……ボヤっと思い出して……あの、夢で――」  雪夜がもこもこの腕をぐるぐる振り回しながら一気に喋り始めた。 「雪夜、ストップ!ちょっと落ち着こうか。興奮しすぎだよ」 「あっ、す、すみません」  隣で呆気に取られている斎たちの顔を見て、雪夜が口を押さえて俯いた。 「いや、怒ってるわけじゃないんだよ。ただ、あんまり興奮するとまた咳が出ちゃうから。とりあえず中に入って落ち着いて話そう?」 「はい」  というか、夏樹自身気持ちを整理する時間が欲しかった。    もしかして、海で溺れた時に思い出したのもこのこと?  過去のことじゃなくて、初恋の相手のことだったのか?  いや、初恋の相手も過去のことだけど!!   ***

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