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夜明けの星 2-31(夏樹)
「……夏樹さん?」
「ぇ?あ、ごめん。なぁに?」
「斎さんもう帰っちゃいましたよ?」
「あぁ……」
考え事をしている間に斎はさっさと帰ってしまったらしい。
あっ!最後の方、何話してたんだ?
聞き逃したっ!
「……」
二人とも黙ってしまったので、急に部屋の中が静かになった。
考えてみると、完全に雪夜と二人っきりになるのは本当に久々だ……
「え~と……そうだ。晩御飯何食べたい?」
ヤバいっ!話題が思いつかないっ!!
さっき昼飯食べたのにもう晩飯の話って早いだろ俺!!
いやでも、一応聞いておかないと……作る段取りもあるし?ね?
「え、晩御飯ですか?」
「うん、隆さんの本格料理食べた後だから、俺の料理がしょぼいのバレちゃうけど」
「そんなことないですよ!?夏樹さんの作るご飯もめちゃくちゃ美味しいですよ!俺、夏樹さんの手料理大好きですっ!」
食い気味に力説する雪夜に、思わず口元が綻んだ。
「ありがと。雪夜にそう言ってもらえると嬉しいよ」
「あ、いえ……はい。なんかすみません……」
「ん?なにが?」
「いや……あの……な、なんとなく……」
急に雪夜が真っ赤になって俯き、指先をモジモジさせ始めた。
おや?この反応は……
「雪夜、緊張してる?」
「えっ!?きき緊張なんてしてませんよっ!?」
「ふ~ん?」
現金なもので、雪夜がいっぱいいっぱいになっているのを見ると途端に余裕が出て来て弄りたくなってくる。
「そのわりには、何だか全然こっち見てくれないよね?なんで?」
「ふぇっ!?そそそんなことないですっ!!」
「雪夜ってさ、兄さん連中の顔はちゃんと見るよね?」
「……え?あ、はい」
「でも俺の顔は見たくないんだ?」
「ちがっ……そういうわけじゃ……っ!!」
夏樹は、雪夜が慌てて顔をあげたところをすかさず両手で挟み込んだ。
「はい、捕まえた。じゃあ、しばらくにらめっこしようか」
「にゅっ……ほえっ!?」
両頬を挟まれている雪夜が、ちょっと尖った口唇をパクパクさせた。
「先に目逸らした方の負けね?」
「へ?ええっ?」
「はい、スタート」
「ちょ、えっ……っ!!」
始まって数秒で雪夜が目を逸らした。
「雪夜く~ん……せめて10秒は頑張ろうよ~」
「だ、だってっ!そんな急に言われても……」
雪夜がにらめっこが苦手なのはよく知っている。
今までこれで10秒もった試しがない。
照れてる顔は可愛いけれども、すぐに目を逸らされるのは若干淋しい。
まぁ、逸らされるのがわかっててやる俺も俺だけど……
「なんでにらめっこなんか……っ」
「ちょっと妬けただけ」
「え?」
「俺とは目を合わせてくれないのに兄さんらとは平気で見つめ合ってるから」
「見つめ合うって……そんなことは……普通に話してただけで……」
「じゃあ、俺とも普通に話して?」
「だって、夏樹さんは……」
「なぁに?」
「……す、好きだから……恥ずかしい……です」
「んん゛!?」
雪夜が視線を泳がせながら、上目遣いにチラッと夏樹を見た。
あ~……もぅ!なにそれ!?
ズルくない?そのセリフにその顔!!
そんな顔されると……
雪夜にキスをしかけて直前でぐっと堪 えた。
「夏樹さん?……怒っちゃった?」
「……~~~~っ怒ってませんっ!!」
「でも顔が怒ってる……」
そうだね!!目は合わせてくれないのに、そういうところは見てるよね!!でも……
「これは怒ってるんじゃなくて耐えてるのっ!!」
「耐えてるって……やっぱり怒って……」
「違うっ!自分の煩悩と戦ってるところなのっ!あ~も~!ちょっと待って、ごめん今俺ホントダメだ……あ、雪夜に怒ってるわけじゃないからね!?これは俺が自爆しただけだからっ!」
夏樹は両手で口元を覆ってしゃがみ込んだ。
普段何気なくしてるやり取りだけど、今はしちゃダメなやつだコレ……
くっっそ!押し倒したいっっ!!めちゃくちゃキスしたいっ!!
けど~~~~~……っ!
あ゛~~っ!やっぱり今二人きりはダメだっ……斎さん帰ってきてぇええええ!
斎の言っていた通りになったのが癪 に障 るが、確かにソッコー助けを求めていた。
マズいな……このままだと……
「ごめん、ちょっと俺……頭冷やして来る」
「え?夏樹さん!?」
「雪夜、適当に映画でも観てて」
「あの……え、どこ行くんですか!?」
「大丈夫、テラスにいるよ。どこにも行かない。すぐに戻って来るから。あ~、何かあったら呼んでね?」
本当なら、車で山頂にでも行きたいところだけど、雪夜をひとりに出来ないし、するつもりもない。
ただ……少しだけ雪夜から離れて落ち着きたかった――
***
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