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夜明けの星 2-32(雪夜)

「ちょっと頭冷やして来る」  夏樹はそう言うと、テラスに出て行ってしまった。  俺に怒ってるんじゃないって言ってたけど……でも耐えてるって……?  自爆ってどういうこと?  斎さんには余計なこと考えずに甘えろって言われたけど……頑張って……好きって言ったのに……一緒にいるのを拒否られた場合はどうしたらいいんですか……?    あ~もぉ~なんでこうなっちゃったんだろう?  病院でもここでも、常にお兄さんたちが誰かは一緒にいてくれたから、二人っきりになるのはすごく久しぶりで……せっかく夏樹さんと二人っきりになれたのに、改めて二人っきりなんだって思ったら急に恥ずかしくなっちゃって、余計に顔を見ることができなくなって……  今まで一体どうやって夏樹さんと二人で過ごしてたっけなんて考えてしまった。  そうか、これが余計なことだったのかな……そんなこと考えずにいつも通りに……いや、だからいつも通りがわかんないっ!!   「はぁ……」  途方に暮れてソファーに寝転んだ。  静かだな……  斎さんたちは、それぞれに自分の仕事や用事をしていることの方が多かったので、食事の時以外は実はみんなわりと静かだった。(隆と浩二はほぼずっと喋っていたけれど。)  それでも、誰かが同じ空間にいるというだけで、なんとなく安心できた。  独りきりの静寂と、誰かが傍にいる静寂がこんなに違うなんて……  静かすぎて、耳鳴りがする……  夏樹さん……ほんとにテラスにいるのかな……?  もしかして……どこか……行っちゃってたりして……  すぐに戻るって行ってたけど、すぐっていつ?  俺はいつまで……ひとりなの……?  だんだんと頭がぼんやりしてきて、思考が飛び飛びになって来た。  雪夜は急に不安感と寂寥感に襲われてフラフラとテラスに向かった。  なつきさん……いる……  夏樹はテラスにあるテーブルセットのチェアに座って池の方を眺めていた。  夏樹の後ろ姿を見て、少しほっとする。  外に出ようとして、手を止めた。  だめ……なつきさん……の……じゃま……しちゃ……    テラスへ出る扉の前で膝を抱えて座り込んだ。  ……ここでまつ……  夏樹の後ろ姿をじっと見つめて、ただ静かに待った。 ***  どれくらいそこにいたのか、徐々に身体が冷えてきた。  ぼーっとしていたせいか雪夜自身はあまり寒さを感じなかったが、確実に寒さの影響を受ける部分があった。 「ケホッ……コホッ!……っ!?」  小さな咳が出たと思ったら、止まらなくなった。  しかも、咳をするたびに背中や骨、内臓……どこが痛いのかわからないくらいあちこちが痛む。  痛むせいで咳をするときに変に力が入って上手く咳き込めないので、呼吸が乱れる。    なに……これ……!? 「ぅ……ケホッ……ヒュッ……っ!?」 「――え?……雪夜!?どうしたの……って、もしかして俺を待ってたの!?なんでこんなところで……あぁ、咳出ちゃったのか……」 「っケホッ……なつ……っ」  雪夜の咳が聞こえたのか夏樹が戻って来た。  扉の前で座り込んでいる雪夜を見ると、ちょっと驚きつつもスッと前にしゃがみ込んで雪夜の様子を確認する。  怒っているのかと思ったのに、夏樹の声はいつもと同じで優しかった。 「よしよし、苦しいね。大丈夫だよ。お薬飲みに行こうか。おいで」  なんで咳をするだけでこんなに痛くて苦しいのかわからなくて混乱している雪夜と対称的に、夏樹はやけに落ち着いていた。  夏樹は雪夜を抱き上げると、暖かいリビングに戻って薬の用意をしてくれた。 「ぅ~……っ!」 「落ち着いて、大丈夫だから。ゆっくり息吐いて。咳は無理に止めなくていいよ、お薬が効いてきたら止まるからね」 「ケホッ……ぅっ……~~~~っ!」  せき……したくない……くるしい……  雪夜は、さっきまでのマイナス思考など全部吹き飛んで、背中を優しく撫でてくれる夏樹に涙目でしがみついていた。 *** 「――だいぶ落ち着いたかな?」 「……っ!?」  いつの間にか薬が効いてウトウトしていた雪夜は、夏樹の声で目が覚めた。  急いで起き上がろうとすると、夏樹に眠るよう促された。   「あぁ、ごめん。寝ていいよ。疲れたでしょ」  つかれた……なんだか、いたいのと、くるしいのと……よくわからない…… 「やっぱり、まだ無理だな」  え?  夏樹がため息交じりにボソッと呟いた。  どういう意味なのか気になったが、夏樹に背中をとんとんされるのが気持ち良くて、結局そのまま眠ってしまった――…… ***

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