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夜明けの星 2-36(雪夜)

 ――結果的に……自爆しました。えぇ、俺がですよ。それはもう見事に。  おかしいなぁ~……こんなはずじゃ……  俺って前からこんなに感度良かったかなぁ……?  約束通り、夏樹さんのしてくれたキスは、いつもみたいに舌を絡ませるような濃厚なものじゃなかった。  口唇を合わせるだけの軽いキス。  ……のはずなのに……何であんなに気持ちいいんですか!?  夏樹さんの口唇ってどうなってんの!?  しかも、俺が感じて反応しそうになると口唇から一旦離れて頬や耳元……とキスが移動する。  身体に力が入らないようにしてくれたのかもしれないけど……  要はめちゃくちゃ焦らされまくりのキスの雨でどこに集中すればいいのかわからなくて……  混乱して感覚がバグったせいで結局どこを触られても気持ち良くなってしまった……  ……あれ?つまり俺が感じやすいんじゃなくて、これってやっぱり夏樹さんのせいってことじゃないの……?  で、夏樹さんが言っていたとおりに……触れられて反応しちゃう度に身体中が痛くなった。  気持ち良いのに痛いってなにこれ、どんな拷問なんですかぁ~~~っ!!  めちゃくちゃ痛いけどキスをやめてほしくなくて必死に我慢していたのに、そんな俺を見て夏樹さんが吹き出した…… 「ふ、はっ……くくっ……ははは、ダメだ、ごめん。笑っちゃった。雪夜、息出来てる?」 「う゛~……だいじょう……ぶ……です」 「全然大丈夫そうじゃないけど。眉間の皺スゴイよ?痛み止め飲む?」 「や、だ!!」 「でも痛いんでしょ?」 「ぅ゛~……いだぐない゛~~~っ!」  キスして欲しいと言ったのは自分なので、痛いと言うのは何だか負けな気がして悔しくて、なんとなく強がってしまった。  俺は一体何と戦っているのでしょうか……?自分自身?なんだそれ……  無駄に強がってないでさっさと楽になりたい……でも、薬飲むのもいやなんだよぉ…… 「なんでそこで意地を張るかなぁ……はいはい、もうキスしないから力抜いてリラックスして。ちょっと落ち着こうか、ね?」  夏樹が笑いを噛み殺しながら雪夜を抱き寄せて背中をトントンと軽く撫でた。  いつもならそうされると落ち着くことが出来るのに、今は…… 「っぁん……ん゛~~~っ!!やめっ……も、今触らないで……!耳、もダメ……っ!」  冬物の分厚いパーカーの上から撫でられただけなのに、その部分がなんとなく熱くて疼いた。  その上、耳元に夏樹の吐息があたったことでも反応してしまって、また痛みに呻く。 「~~~っ……なつ……さん……っの、ばかぁ~~……っ!!」  やり場のない痛みに思わず夏樹に八つ当たりをしてしまった。 「え~?ひどいな~。キスしてってねだってきたのは雪夜なのに?」  夏樹は怒ることもなく、むしろ楽しそうに雪夜の言葉を受け流した。 「そ……うだけど……っ……えろくないキスって言ったぁ!」 「ちゃんとえろくないキスにしたよ~?舌は入れてないし、雪夜も()ってはないでしょ?」  勃っ……!?それはそうなんだけど……そもそも痛すぎて勃ちませんっ!!  って、そういう問題じゃないぃいい!! 「それにしても……この状態で触るなとか、俺どうしたらいいの?」  夏樹がまた吹き出した。  雪夜は、触らないでと言いながらもしっかりと夏樹にしがみついていたからだ。 「だって……ぅ~……俺からはいいのっ!」  矛盾してるのはわかってるけど、身体中が痛くて息が苦しいから……夏樹さんに抱きついていないと怖い。 「理不尽だなぁ……はは、わかったわかった。だから、ちょっと力抜いて?マジで俺そろそろ首絞まっちゃう」  夏樹が、首に抱きついていた雪夜の腕をポンポンと叩いた。  慌てて腕を緩める。 「ごめ……なさい……っ……」 「ん、ありがと。ついでに首じゃなくて胸の方に抱きついてくれたら嬉しいな。そしたら俺の声が気にならないでしょ?」  言われてみれば、首に抱きついてるから夏樹さんの声が近いわけで……  雪夜は夏樹に言われた通り、少し下におりて胸元に抱きついた。 *** 「ところで、斎さんに何を吹き込まれたの?」  ようやく落ち着いてきて夏樹の入れてくれたココアをちびちび飲んでいると、少し離れた場所に座った夏樹が聞いてきた。  なぜそれを……っ!? 「……え、あの……たまには俺からシテって言ってみろって……だからあの……キスして欲しいなって……」 「ん~!?……くそっ!あの人は~~~……っ!!まだ出来ないの知ってて何けしかけてんだっ!!」  夏樹が横を向いて苦々しく吐き捨てた。 「……すみません」 「雪夜は謝らなくていいよ。それに、なんだかんだでキス出来たのは嬉しいから俺は別にいいんだけど。でも、雪夜が痛がってるのを見るのは俺も辛いから、しばらくは止めておいた方が良さそうだね」  夏樹は優しく微笑んで、しょんぼりと俯く雪夜の頭を軽く撫でてくれた。  いや、でもさっき夏樹さんめちゃくちゃ笑ってましたよね!? 「あぁ、あれは……涙目で我慢してる雪夜が可愛かったから思わず……ね。だけど、こんな風に普通に触るのもダメってなるのは困るから、まずはちゃんと身体を治そうね」 「……はい」  こうして、キスは当分お預けになってしまった。 ***

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